今月の本の話題Science Fiction

2018.02.14

三角和代/S・K・ダンストール『スターシップ・イレヴン』訳者あとがき(全文)

スターシップ・イレヴン 上スターシップ・イレヴン 下
 かつて、電信の発達にともなって木から木へと電線をわたすことから始まったラインズマン(架線作業員)の仕事は、未来のあるとき、星から星へとわたる船で欠かせないものとなる。本書『スターシップ・イレヴン』は未知のテクノロジーが登場した際の世間の無理解や、普及までの奮闘といった歴史に着想を得た一冊だ。
 新種のエネルギー源”ライン”が発見され、正体は解明できないまま、人類は長年の研究によって船の動力とすることに成功し、ジャンプと呼ばれる超光速航行で、地球から銀河系全体へとその活動範囲は広がっていった。このラインのメンテナンスをおこなえるのは、意識によってラインの歪みを正せる、生まれつきの才能をもつ一握りの”ラインズマン”だけ。ラインは十種類あり、最高位のライン10を扱える者は銀河全体でも貴重な存在で、人々から多大な尊敬を集めている。
 ただし、主人公のイアン・ランバートだけは違う。意識ではなく、歌ってラインを修理する変わり者だからだ。ラインズマンのためのギルドやカルテルが存在する世界で、イアンが所属するのは業界内では鼻であしらわれる弱小カルテル。そのうえ、生い立ちを引け目にも感じているし、高位のラインズマンが全員集められた、謎の球体”合流点”の調査にもひとりだけ行かせてもらえないとあって、ますます悶々としながらも、イアンは目の前のライン修理の仕事に全力を尽くしている。
 転機は突然、訪れた。イアンの故郷、ランシア帝国の皇族であるミシェルによって、人類が初めて遭遇したエイリアン船の調査に駆りだされることになったのだ。故郷ではあるが、いい思い出はなく、冷酷と恐れられるユー皇帝が支配するランシアを愛したことなどイアンはなかった。反発したい気持ちはあるが、いままでの鬱憤を晴らせそうな大きな仕事を前にやはり期待はふくらむ。それに、意外にも、憎い相手であるはずのミシェルと過ごす時間は癒やしにもなった。いままではラインのことだけを考えてきたが、ランシア帝国率いる旧勢力の同盟と新興勢力のゲート連合/レドモンドという二大星間陣営は開戦寸前で、彼は政治の中心に否応なしに巻きこまれていく。
 そうした環境でラインズマンとしてのモラルをいかに守るかも問われる。イアンの視点と、ゲート連合に与するベテランのラインズマンであるロッシの視点とが交互に語られる形式で、ふたりは対照的な考えかたの持ち主であるのに、ラインに対する情熱は同じであることが伝わる。ラインを感じることができる者はみなラインズマンになることを目指す。そこまで人を惹きつけるラインとはそもそもなんなのか、ラインズマンの才能は人類にあらたに与えられたものなのか、それとも昔は誰もが持っていたのにほとんどは失ってしまった感覚なのだろうか? 想像は尽きない。
 宇宙冒険もののヒーローだが、腕っ節はからっきしだめで、自分に自信のないイアンは、つい肩入れしたくなるキャラクターだ。彼が秘めているポテンシャルはものすごいのだが、変わり者扱いされつづけて、自分を信じようにも、すがるものがほとんどない。そんな彼が歌によってラインという存在と心を通わせ、少しずつ自信をつけ、駆け引きのプロたちとわたりあうようになる過程は胸熱である。ラインは嘘をつかず、心を閉ざすことがない。同じ人間たちと一緒にいるより、ラインにかこまれていたほうが安らげるガキイアンがついそう思ってしまうことに共感する人も少なくないかもしれない。けれども、そこでまた悩み、人とどうむきあっていくかを考えることの意義がここには描かれているように思う。
 ともあれ、どんどん場面が切り替わり、策略と陰謀のうずまく冒険ものである。おっとりした主人公を取りかこむのは、国のために才覚を発揮する美女ミシェル、その警護役である誇り高い准将エイブラムや頑固なヘルモ艦長、ときに優しく、そして厳しく、いつもいじってくる兵士ラドコ、嫌味な敵キャラのロッシと強者揃いなので、そのあたりのバランスも思う存分楽しんでいただきたい。
 謝辞にあるように、著者S・K・ダンストールの中の人はふたりいる。本書はオーストラリアのシェリリンとカレンのダンストール姉妹によるデビュー作だ。生年・経歴等は公表されていないが、ふたりともメルボルン在住。昼間はフルタイムで別の仕事をしているため、通勤列車で、カフェで、フードコートで、公園のベンチで、時間さえ見つけたら執筆をしている。小学生の頃から多読で、物語を書き始めていたふたりは長年それぞれ創作を続け、おたがいを最初のレビュアーとして切磋琢磨していたが、あるとき、共作にしたほうがよりよいものができるのではないかと考えた。同じものに対して情熱をもつ者がふたりいて、アイデアをぶつけあって客観性をもてることが強みであり、また、人物と物語の流れを知り尽くしたうえでそれぞれが最終章を書いてもちよると、内容もトーンもまったく違っていて、その意外性がおもしろさでもあるという。それぞれの役割はだいぶ異なっているが、作品ごとにその役割は入れ替わるフレキシブルな形で創作しているそうだ。ただ、とにかく書いたものを音読することが自分たちの執筆の特徴だと語っている。音楽が人の気分や意識にどれだけ影響を与えるかを強く感じていることが、本書執筆の際も大きく反映されている。とくにシェリリンは執筆中には、ハンス・ジマー、ジョン・ウィリアムズ、ハワード・ショア、ケリー・マジーらの映画音楽を、声が必要なときには、サラ・ブライトマン、ローナン・キーティング、ミートローフ、ボニー・タイラーあたりを聴くそうだ。
 ふたりはSF・ファンタジー小説の大ファン。最初はアンドレ・ノートンやアラン・E・ナースに夢中になり、アン・マキャフリー、アイザック・アシモフ、チャールズ・シェフィールド、ダイアナ・ウィン・ジョーンズらを経て、現在ではアン・レッキー、ロビン・ホブ、サラ・モネット(キャサリン・アディスン)、アン・ビショップ、セイジ・ブラックウッド、サラ・プリニース、コニー・ウィリス、ほか、名前をあげきれないくらいお気に入りの作家がいる。多忙なふたりであるが、書くためにもたくさんの、しかも幅広い読書を楽しみたいと思っ
ており、たとえばマーサ・グライムズも好きだという。

〈著作リスト〉
 Linesman(2015) *本書
 Alliance(2016)
 Conf luence(2016)
 Stars Uncharted(2018)

 続編の Alliance では、星間勢力の争いが続くなか、あらたな登場人物として艦とクルーを失ったある艦長とイアンが組んでエイリアン船のさらなる解明を進める。三部作完結編となる Confluence では、兵士ラドコの背景があきらかとなり、ユー皇帝とミシェルという親子の対立が生まれる。新作 Stars Uncharted の詳細は明かされていないが、ラインズマン・シリーズではないスペースオペラ。ラインズマン・シリーズについては、あらたな三部作の構想がなされているという。

  2017年11月



■ 三角和代(みすみ・かずよ)
 1965 年福岡県生まれ。西南学院大学文学部外国語学科卒。英米文学翻訳家。訳書にキジ・ジョンスン『霧に橋を架ける』ガレス・L・パウエル『ガンメタル・ゴースト』ジョン・ディクスン・カー『帽子収集狂事件』他多数。











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