魔女
 樋口有介さんのが手掛けた『魔女』は、弊社でもこれまで刊行しました『風少女』『林檎の木の道』、あるいはデビュー作の『ぼくと、ぼくらの夏』(文春文庫)同様に青春ミステリに分類される作品となります。前二作の主人公たちよりも少しだけ年長の24歳(明確には示されていませんが)ほどの、いわゆるフリーター。テレビ局の報道局に勤める姉から、かつての恋人が殺害されたことを聞き、アルバイト感覚で事件を調べ始めます。
 身近な女性の死に直面したことで自ら調べていくのとは違い、今回の主人公・広也は、どこか一歩引いたポジションで事件に相対します。なんとなく知り合って、付き合いだして、なんとなく別れただけの元恋人。そもそも、いったい彼女のどこが好きだったのかすら、やや判然としない。ところが、調べはじめると、そもそも出身地が聞いていた場所とは異なるなど、ますます彼女の姿がぼやけはじめます。広也の困惑具合と比例するように、読者はぐっと物語に引き込まれていくことでしょう。
 
 樋口さんの作品には、とても魅力的な女性キャラクターが登場しますが、今作においては主人公の姉・水穂が個人的にはイチオシです。どこかとぼけた印象の広也とは異なり、押しの強さと美貌でのし上がっていこうとするそのバイタリティーに圧倒されます。

 また、今回の再文庫化にあたり全面的に著者が手を入れ、より読みやすい文体に変更になっております。もし、文春文庫版をお持ちの方がいらっしゃるようでしたら、読み比べてみるのもよいかもしれません。

 ちなみに、作中に登場する洗足池は、東京都の大田区にあるとても綺麗な池です。東急池上線の「洗足池駅」からすぐの閑静な住宅街に囲まれた中にあります。今話題の、NHK大河ドラマ『西郷どん』の西郷隆盛もこの地を訪れたという史実も残っているそうですので、休日の散歩等にもぜひ。


(2018年1月23日)



ミステリ・SFのウェブマガジン|Webミステリーズ! 東京創元社