今月の本の話題

2018.01.24

次の一手の選択が、全てを決める。 韓鐵均/洪敏和 訳『あれかこれか――形勢によって打つ手は変わる』

あれかこれか
 今何時と問われると、腕時計とかスマホで時間を確かめる。学校や会社は決まった時間に始まり、終わる。世間には等質の時間が流れていて、日常生活で疑問を感じることはない。ただ愛する人との時間は短く、退屈な会議の時間は長く感じる。心理的な時間とでもいうのだろうか。過去とか未来とか将来とかで時間を考えることもある。そんなふうに人は、様々な時間を生きている。過去は選べないが、未来や将来は選択することが出来ると思っている。よく人生の岐路とか言われるが、進学や就職そして結婚とかの選択で人生は全く違ったものになってくる。選択は重要である。すでに選べないものとなった過去も重要である。

 さて本書の書名「あれかこれか」は、デンマークの宗教思想家キルケゴール(1813-1855)の著書からのもので、そこでは美的生活(これもこれもと快楽を追及し欲望や享楽の奴隷となり、自己を見失って倦怠に陥る)、倫理的生活(あれかこれかの決断によって享楽を捨てるが、自己の有限さに絶望する。)から宗教的生活(神に自らを委ねる決断によって、真理へと飛躍する)を選択することが説かれている。
本書は囲碁の本であり何の関係があるのかと思われるかもしれないが、選択の重要さを述べるためにこの書名とした。

 本書のテーマは、次の一手の選択である。将に来たらんとする時にどう対処するかという問題である。人生をかけるほどの大問題ではないけれど、勝ちたい気持ちは変わらない。

 盤面には打った石があり、一定の形が出来上がっている。その局面から次の一手(あれかこれか)を選択しなければならない。ただ単に一手を打つのではなく、現在の形勢(負けているのか、勝っているのか。そしてそれは何目なのか)を的確に把握して、次の一手を決めなければならない。勝っていれば無理をすることはない。負けていれば勝負手を放って、逆転を狙わなければならない。漠然と打ってはならないのだ。

 本書を読むことで、一手の選択の背景を、一手には意味があることを学べるはずである。


(2018年1月24日)



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