海外文学セレクション
『旅の終わりに』マイケル・ザドゥリアン 小梨直訳

旅の終わりに
 妻エラは末期ガンで入院を勧められている状況、夫ジョンはアルツハイマーが進行していて、記憶が時々大混乱……そんな夫婦が、かつて子供たちを乗せてあちこち旅した思い出の詰まったキャンピングカー〈レジャーシーカー〉に乗って、ルート66をひた走る。 行く先はディズニーランド。
 子供たちは、必死で携帯電話で連絡をとり、自宅に戻るよう説得をつづけるが。

 ハンバーガーばかり食べたがるジョン、痛み止めを飲み続けるエラ、途中で強盗に襲われたり、「夫は私が誰だかわかっていない!」と、エラが絶望的になるショッキングな出来事も。エラを置いて車を発進させてしまったり、たまにはと、ホテルのスイートに贅沢に泊まったり。昔のスライドを映してなつかしがったり……。

「ザドゥリアンの書きぶりには驚かされる。とても穏やかなペースで進んでいるかと思わせて、次々に起こる予想外の出来事。そして最後の最後に『なんということか!』」(エルモア・レナード)という評がすべてを語る、老いについて、夫婦について、人生について、軽やかなタッチで見事に描いた傑作です。

 本作は、1月26日(金)TOHOシネマズ 日本橋他全国順次ロードショーの『ロング,ロングバケーション』の原作です。
 映画のエラ役はヘレン・ミレン、ジョンはドナルド・サザーランド、二大スター共演の素敵な老人ロード・ムービーです。
 老いについて、夫婦について、人生について、という同じテーマのフランス映画『愛 アムール』(2012年、ミヒャエル・ハネケ監督、ジャン=ルイ・トランティニャン、エマニエル・リヴァ他)とは、対極の雰囲気の作品ですが、どちらも人生について深く考えさせられる映画です。(実は私、海外旅行の往路の機内で『愛 アムール』を観て、ズーンと胸をえぐられ、人生について深く考え続ける旅になった経験がありましたが、それはそれで旅の思い出になりました。でもこの『ロング.ロングバケーション』は、機内で観たとしても、地上で観たとしても「ズーン! ズシーン!」はなく、軽やかで素晴らしい人生を思うことになるでしょう。どちらも捨てがたい傑作です)
 読んでから観ても、観てから読んでも大丈夫です。

 ミシガン・デイリー・ニュース紙で「普段はクライム・ノベルかスポーツ関連書専門の書評家である私だが、本書は途中でやめることができなかった」という書評を見ました。

 映画情報満載の幅広帯がかかっての登場ですが、帯の下には西淑さんの素晴らしいイラストが隠れていますので、まずは帯をはがしてカバーをご覧ください。この作品が幸せな物語であることがおわかりいただけるでしょう。装丁は中村聡さんです。

(2017年12月11日)



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