その植物はツル植物に似ているが、特殊な性質のかんきつ類のような実をつけるといわれていた。暗闇、すなわち光を遮断した環境で育ち、嘘を養分にしたときだけ花を咲かせて実をつけるという。(中略)どうやって植物に嘘を養分として与えるのかと尋ねると、木に嘘をささやきかけ、その嘘を世間に広めるのだという答えが返ってきた。嘘が重要な事柄であればあるほど、信じる人が多ければ多いほど、大きな実がなるという。

 19世紀後半、ダーウィンの進化論に揺れる英国。
 博物学者であり、国教会の牧師でもあるエラスムス・サンダリー師は、世紀の発見、翼のある人類の化石〈ニュー・ファルトン・ネフィリム〉を発見したことで、一躍時の人となった。だが、その化石が捏造であるという記事が新聞に発表される。
 世間の噂や非難から逃れるように、サンダリー一家は英国を離れ、船でヴェイン島に向かった。父親のサンダリー師、その妻マートル、娘のフェイス、息子のハワード、そしてマートルの弟のマイルズだ。
 物語は、14歳の少女フェイスの視点で語られる。

 フェイスは父を尊敬し、博物学者を志す利発な少女だ。女性は家庭で大人しくしているべきだというこの時代、女性の博物学者など、夢のまた夢だ。
 何かというと父は幼い弟ばかり大事にし、女である自分はいないも同然、と不満を募らせるフェイス。
 一家がヴェイン島に移ってきたのは、表向きは島での発掘調査にサンダリー師が招かれたのが理由だということになっていた。だが、化石が捏造されたとの噂は、一家を放っておいてはくれなかった。島でもすぐにそんな噂がささやかれ始め、一家は島の人々からも疎外されるようになってしまった。
 そんななか、肝心のサンダリー師が謎の死を遂げた。
 一見足を滑らせて斜面を滑落したように見えるが、場合が場合だけに自殺の可能性も否定できない。だが、自殺者を教会の墓地に埋葬することはできないのだ……。
 父は何者かに殺されたのではないかと疑いを持ったフェイスは、父の名誉を取りもどすために、密かに島の人々を調べ始める。
 実は父が亡くなるまえに、フェイスに謎の植物を託していたのだ。
 その植物とは、暗闇に育ち、嘘を糧に実を結び、食べた者に真実を見せるという不思議な「嘘の木」だった。
 父の遺した手記で嘘の木の秘密を知ったフェイスは、その木を利用して父の死の謎を解明しようとする。

 コスタ賞(旧ウィットブレッド賞)児童書部門と、全部門(小説・詩・伝記・デビュー作・児童書)のなかの最優秀賞に選ばれた傑作。ちなみに児童書部門の作品が、全部門の最優秀賞に選ばれたのはフィリップ・プルマン『琥珀の望遠鏡〈ライラの冒険シリーズ1〉』以来の快挙です。また米国でもボストングローブ・ホーンブック賞を受賞しています。

(2017年10月24日)



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