今月の本の話題

2017.10.16

円居挽『その絆は対角線 日曜は憧れの国』刊行記念スペシャルインタビュー

2017年10月に刊行される『その絆は対角線 日曜は憧れの国』は、昨年刊行し好評をいただいた『日曜は憧れの国』に続く、青春ミステリシリーズ第2弾です(本作から読んでも問題はありません)。
四谷のカルチャーセンターで出会った中学生の少女4人が、講座で起きる事件を通し、成長していく姿を描く本作。その刊行を記念し、著者の円居挽氏に執筆秘話をお伺いしました。

――まず、前作のテーマはあとがきによると「若い頃の悩み」とのことですが、今回のテーマはどのようにして決めたのでしょうか?

前作が自身の問題に気がつくところで終わりだったので、今度はその後の話が必要だなと思いまして。ただ、彼女たちは中学生である以上劇的な解決は望めないわけで、「じゃあ、どうやって悩みと付き合っていくか」を描こうかなと。

――主人公にして探偵役の千鶴たちは、本作では経済学講座、マナー講座、芸術講座、創作講座などを舞台に、ささやかな謎に遭遇します。それぞれの講座とそれにちなんだ謎は、どのようにして決めたのでしょうか?

講座の内容をどこかから引っ張ってくるにしても、一切縁のないことを書くのは怖かったので、ある程度関わったことから捻り出しました(大学で学んだ、会社の研修で受けた等)。講座を決めた後、謎を何とか考えました。決して楽なやり方ではありませんでしたが、逆の手順でやるよりは良さそうかなと。

――主人公4人は、内気な千鶴、明るく元気な桃、計算高い真紀、堅物の優等生の公子と、それぞれ個性が違うので、掛け合いも魅力です。
ベタベタに仲が良いというわけではなく、時に反発したり喧嘩したりという関係が絶妙ですが、各関係性は執筆していくうちに決まったのでしょうか?


一つの終わりに向けてキャラを配置するのではなく、話を重ねる内に変化や発展性が出るように4人のキャラを考えました。そういう意味では前作ではお互い遠慮しているところがあったのが、今回はいくらか親密になったような気がします。まあ、作品もまた生き物なので、書いてみないと解らないことは沢山ありますね。

――千鶴たちは中学生ですが、様々な年齢や職業の人間と出会うカルチャーセンターが舞台ということで、主要キャラが少年少女になる学園ミステリとは、また違う読み応えになっています。執筆する上での発見、あるいは苦労した点はありましたか?

学園内の人間関係に縛られずに動ける生徒ってそうはいないなと思いまして(本作で言うと公子ぐらいでしょうか)。それだったら千鶴のような子でも事件にある程度積極的に関われる環境の方が良いなと思って舞台をカルチャーセンターにしたので、しがらみ的なものを割と無視できて楽でした。ただ、その反面カルチャーセンター側の大人たちとの関係の積み重ねを故意に無視した面があったので、ちょっともったいないことをしたなと(人間関係で物語が転がることもあるので)。

――本作では、各話で千鶴たちに影響を与える、経済学講師のエリカの振る舞いが印象的です。彼女はどのようにして誕生したのでしょうか? また、執筆するうちに変化した点はありますか?

彼女に関しては明確にモデルがいて、読了すれば「ああ、あの人を女性にしたのか」と解ると思います(変に英語が入るのは直近で観た『シン・ゴジラ』のカヨコ・アン・パタースンの影響です)。でも書いている内に特定の一個人ではなく、生きていればどこかで出会うかもしれない大人の代表として描いていましたね。あとはまあ……私の中にもエリカ性が存在するので、それを引き写した感じでしょうか。そういう意味では彼女は五人目の主人公ですね。

――円居さんの著作といえば、私的裁判で争う〈ルヴォワール〉シリーズ、大学に現れる不思議なバーで謎解きをする〈クローバー・リーフ〉シリーズ、探偵養成学校が舞台の〈シャーロック・ノート〉シリーズなど、特殊設定ミステリが多いです。
それらとは異なり、ごく普通の少女たちの悩みと成長を描く青春小説としての色も濃い本作を執筆するにあたり、意識した点はありますか?


物語にはそれを書くためにふさわしい手つきがあると思っているのですが、この作品を書くための手つきを探すのに苦労しました(まず、これまでの作品とかなり違うので)。いい歳した男が女子中学生を描くというのがそもそも厳しいのですが、「根っこは同じ人間だ」と大雑把にくくって走り出した感じですね。書き上げた今でも「もっといいやり方があったかもしれない」と思ってしまう瞬間はありますが、これはこれで良かったのではないかと。

――本作でのお気に入りのキャラクターはいらっしゃいますか? メイン4人でも、各話のゲストキャラクターでも構いません!

まず公子、次いで真紀ですかね。作者としては行動原理がはっきりしていて、書く上で迷わなくて済むキャラクターがお気に入りです(笑)。でもメイン4人が公子ではこの話は成り立たないわけで、その辺の塩梅が難しいなと、このシリーズを始めて思い知りました。

――書いていて楽しかったシーンはありますか?

作陶シーンやその周辺ですね。人間、イレギュラーなタイミングで素の顔が出るというか、「あー、真紀ってこういうところあるんだな」と思いながら書いていました。その真紀の行動を受けて、千鶴に何をさせるか考えるのも楽しかったです。

――反対に、書くのが大変だったシーンはありますか?

創作講座のシーンですかね。もっと悪趣味な話になる予定だったんですが、自分でも引いてしまったんで今の形に落ち着きました。自分がよく知っている分野だからこそ、かえって書けないこともあるなと。

――その他、お気に入り、あるいは印象的だったシーンはありますか?

本作にふさわしい、「地に足の着いた謎解き」を作るのが結構難しかったんですが、最終話のタブレット探しは割とお気に入りです。似たような状況に陥ることは滅多にないでしょうが、「もしかすると現実でも可能かもしれない」と思えるような謎解きも好きです。

――お好きな青春ミステリ、学園ミステリについてお聞かせください。

この欄で挙げるのが適切かどうかは解らないんですが、Netflixで配信中の『AmericanVandal/ハノーバー高校落書き事件簿』が現時点では理想の学園ミステリかもしれません。やや下品なんですが、青春の全てが詰まっています。映像ならではの表現を沢山やっているので同じことを文章でやるのは大変でしょうが、新しい学園ミステリを書く上で大きなヒントが得られました。

――今後の展望をお聞かせください。

達成度合いはともかく、人間を描くということの難しさを理解し、非ミステリ分野で活躍されている方々の偉大さを思い知りました(謎というフックなしでドラマを描くなんて……)。まあ、でも難しくてもやり甲斐はありますよね。「苦手な土俵に無理して上がることはないだろう」と言われるかもしれませんが、作家としては総合力で戦っていきたいので、これからもこうした作風に挑戦すると思います。

――最後に、読者へのメッセージをお願いします。

彼女たちの物語を、楽しんでいただけると幸いです。

――本日はありがとうございました。


円居挽 (まどい・ばん )
1983年奈良県生まれ。京都大学卒。2009年『丸太町ルヴォワール』を講談社BOXから刊行してデビューする。他の著書に『烏丸ルヴォワール』『クローバー・リーフをもう一杯 今宵、謎解きバー「三号館」へ』『シャーロック・ノート 学園裁判と密室の謎』『キングレオの冒険』などがある。

(2017年10月16日)



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