人間精神的に弱っていると、自分を持ち上げてくれる人に影響されやすくなります。今作の主人公・不破真尋も、数年前に事件に巻き込まれ心に大きなトラウマをずっと抱えたまま、ひっそりと暮らしています。目立たず、親しい友達もつくらずに通信販売のテレフォンアポインターとして働いていたある日、矢向いずみと名乗る女性と出会います。いずみが旅行会社を起業すべく大阪から移ってきたというその日の運命的な出会い。同じようなトラウマを抱えているはずなのに、前向きな生き方をしているいずみに、どことなく惹かれていく真尋。言葉巧みに真尋の心に入り、しまいには同居する中、いずみはある計画をこっそりと練っている。その恐るべき計画とは?

 ひとたび読み始めると、怖いと分っていてもページを捲る手が止まりません。読みどころでもある、真尋がピンチに陥るシーンにおいては、著者の美輪和音さんの伸びやかな筆致が、読者の心を抉ること間違いなし。まさにいずみは、獲物を捕食するカマキリのような女だったのだ。用意周到な準備から真尋を追い詰めていくいずみだが……。こう考えると、最初の二人の出会いそのものが、仕組まれていた罠だったのかもしれませんね。

『強欲な羊』の何かが迫りくるような恐怖、『ゴーストフォビア』のぞくっと鳥肌の立つような恐怖、そして今作『捕食』の嫌な想像力をかき立てる恐怖と、三者三様の“恐怖”が味わえます。
 単行本時は『ハナカマキリの祈り』のタイトルでしたが、サスペンス的な印象を持たせるために『捕食』に変更しました。より全体も読みやすく、大幅に改稿しています。 また『かがみの孤城』(ポプラ社)のカバーを手掛けたイラストレーター・禅之助さんに、新カバーをお願いいたしました。真尋といずみの出会いをイメージした、美麗な仕上がりです。どうぞ美輪和音の恐怖ワールドに浸ってみて下さい。

(2017年8月30日)



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