今月の本の話題

2017.08.25

第2回創元ファンタジイ新人賞受賞作『宝石鳥』鴇澤亜妃子[2017年8月刊]

 はるか昔、大きな戦があった。戦は長く続き多くの血が流れ、誰にも止めることができないほど世は乱れた。あまりの乱れに、ついに島々が怒り、天変地異が次々と起こった。ある島は火を噴き、ある島は海に沈み、残されたわすかな人々は海原へと逃げ出した。そんな人々の中に、一人の若い祭司がいた。彼の祈りを聞き届けた一族の神が、一羽の鳥を人々のもとに送った。神自身の化身とも言われる、あらゆる宝石の色の羽根をまとった鳥、宝石鳥は、長い旅路の果てに、ついにこの世界に人々を導いた
 人々がこの世界に安住の地を見出したことを見届けた宝石鳥は、ひとつの卵を残して神の国へと帰っていった。その卵から生まれたのは双子の姉妹。だが、姉はほどなく百万の鳥の協力を得て天の神のもとに帰り、残った妹ジェオウドは女王となり島々を治めた。以来、ジェオウドの後継者は必ず不思議な力をもつという……。

 そんな宝石鳥の伝説が伝わるシリーシャ島。
 百年ほど前、当時のジェオウドが外の国から来た植物学者と恋におちた。恋人が帰国する際、一緒に行くことを望んだジェオウドは、自らがもつ不思議な力でその身を二つに分け、半身を島に残し、半身は恋人と共に海を渡った。
 だが、ジェオウドの力をもってしても魂と身体を二つに分けるなど、所詮無理なこと、ジェオウドは一枚の肖像画を遺して消えてしまう。

 そして百年後、シリーシャ島では新たなジェオウドの即位の儀式が迫っていた。葬祭であり、死者の祭りであるカーシュ・ルフ。シリーシャ出身の踊り手である妻を事故で亡くした音楽家真狩は、残された妻の左手の遺骨を持って、祭りに参加すべく島を目指していた。祭りの調査中に行方不明になった婚約者を捜す若い女性シオラもまた……。祭りの熱気と喧噪のなか、カーシュ・ルフは、これまでの祭りと違う様相を見せはじめていた……

 不思議な力を持つ仮面の女、女王の魂を引き継ぐ儀式、喪われた半身。

 井辻朱美、乾石智子、三村美衣の三選考委員も絶賛した、エンターテインメントとしてのファンタジイの読み心地と、幻想文学としての深みを兼ね備えた、まさに大人のための読み物です。

(2017年8月25日)



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