「あたしは強い幻魔法師を探しているの。それが旅をしている理由」
 峠の宿屋で手伝いをしていたハーブラギスが、偶然出会った旅の薬師見習ミリナ。桃色の大きな鳥ヴィーを肩に乗せたミリナは、ハーブラギスにそう告げた。
 丁度宿での仕事がなくなったハーブラギスは、ミリナの求めに応じ、彼女の旅に同行することに。
 実はハーブラギスも、ささやかな幻魔法を使えた。かつて罹った熱病の後遺症なのか、そのとき使った薬のせいか、わずかに風を動かすことができるのだ。
 そんなハーブラギスがミリナの旅に同行することを決めたのは、彼女が持っていた金貨を見たせいだった。片面に華麗な城のような建物、反対には弧を描く虹の上に太陽と三日月、下には七つの星と流れる水の紋章。父の形見だというそれは、遠い昔に消えた古い王国エディムーンの金貨。
 驚いたことに、それは孤児だったハーブラギスが子どものころ暮らしていた施設で、面倒を見てくれた不思議な女性ネラの本の表紙に描かれていた紋章と同じだったのだ。
 そしてミリナの周囲にあらわれる奇妙な白い人影。ミリナはそれを死神と呼び、彼女の一族はその死神に狙われているために長生きできないのだと言った。死神を追い払うために力の強い幻魔法師をさがしているのだと。

 エディムーンとは何なのか? ミリナとハーブラギスの行く手に待つものは……。
 
 第一回創元ファンタジイ新人賞選考委員特別賞受賞の著者の受賞後第一弾。

(2017年8月8日)



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