ある晴れた休日、ニーダムとメープルはロンドン郊外の水晶宮(クリスタル・パレス)を訪れる。
そこには、世界中の美術品や植物をはじめ、異国情緒あふれる珍しいものが展示されていた。
人々でごった返す、きらびやかなガラスの宮殿に、突如大きな悲鳴が響き渡った。
袋づめの首なし死体がどこからともなく降ってきたのだ。
死体の手に握りしめられていボロ布には、「死神(デス)」という赤い文字。
外では暴風雨が吹き荒れ、人々は水晶宮に閉じ込められてしまう。
混乱する人々の前に、カラスの仮面をつけた黒ずくめの男が姿を現わす。
それは、おぞましいショーの始まりだった……。

田中芳樹さんのヴィクトリア朝怪奇冒険譚シリーズ三部作最終巻、『水晶宮の死神』をお届けします!
今回は第三部にして最終巻ということで、心待ちにされていた方も多いのではないでしょうか。ここでちょっとシリーズ全体についておさらいしてみましょう。

語り手は、81歳の老人、エドモント・ニーダム。物語は彼が自身の30代の頃の出来事を振り返る、回想録の形で綴られます。
クリミア戦争から帰還し、姪のメープルと再会を果たしたニーダムは、ロンドンにある貸本屋で姪といっしょに働くことになります。就職先のミューザー良書倶楽部は、チャールズ・ディケンズ(!)やハンス・クリスチャン・アンデルセン(!)など、大作家たちが出入りする大手の会員制貸本屋です。
ふたりは個性豊かな大作家たちに振り回されながら、様々な怪奇事件に巻き込まれていきます。

ニーダム自身は温厚な性格ですが、メープルは好奇心旺盛で物怖じしない女の子で、読んでいる間はまるで、このメープルに手をぐいぐい引かれながらお話のなかに引っ張り込まれていくようでした。
さらに、このシリーズは当時の歴史的事実があちこちに織りまれているので、「えっ、この人も実在するの!?」とか、「これも実際にあったことなの!?」という人物や出来事がたくさん登場するのも魅力です! 語り手のニーダム(回想録を執筆しているのは1907年という設定)がところどころで、当時のイギリスの文化や風習についてのトリビアを教えてくれるのも楽しく、三冊読むと、この時代に関する、人に教えたくなるような豆知識がたくさん身につくこと間違いなしです!(本当はここで、あれやこれやと作中で教わった豆知識を紹介したいのですが、それは読んでのお楽しみに!)

そしてそして、既刊を読まれた方はきっと今回も楽しみにされているでしょう、後藤啓介さんの装画と挿絵にもぜひご注目ください。このシリーズは装画だけでなく、各話数枚と扉、それに登場人物ページ、目次ページまで、後藤啓介さんがイラストを描き下ろしてくださっています。『水晶宮の死神』を読み終わった方は、ぜひ三冊並べて眺めてみてください。

『水晶宮の死神』は7月21日発売です。どうぞお楽しみに。
そして既刊をお読みでない方は第一部『月蝕島の魔物』と第二部『髑髏城の花嫁』もぜひ!

(2017年7月21日)



ミステリ小説のウェブマガジン|Webミステリーズ! 東京創元社