本作『ミツハの一族』の主な舞台となるのは、現在は札幌市白石区である、旧白石村。白石区のホームページによると、明治4年(1871年)に戊辰戦争に敗れた仙台藩、白石城主・片倉小十郎の家臣の人々67名が入植してはじまる、とあります。

 そこから半世紀後の大正12年(1923年)が物語のスタートです。
 H大学医学部(文庫化に際し、北海道大学からH大学に変更となりました)に通う八尾清次郎のもとに電報が届けられる。白石村小安辺の小安辺乃社の宮司である従兄・八尾庄一郎が亡くなったという知らせ。集落を統べる庄一郎の死は、一族にとっては大変な問題となった。なぜなら、一族を統べる庄一郎は烏目役とよばれ、村の存続にかかわる重大な役目があるからだ。未練を残したまま亡くなった者は、鬼と化し村の井戸を赤く濁す。長野県の旧安辺村は、この鬼が原因で水源が涸れ移住を余儀なくされたのだ。その未練の理由を探り、鬼を常世に送れるのは、この烏目役と水守の二人のみ。烏目役は黒々とした瞳で夜目がきかない男性。逆に水守は明るいところが苦手という女性。庄一郎が亡くなり、さらに鬼の出現におののく村で、清次郎が新たな烏目役となるのだが……。

 ウィキペディアによると、明治16年(1883年)に長野や富山から入植開始とありますので、おそらくこの時期に小安辺集落の一部が入植したのでしょう。主人公の八尾清次郎や、水守は幼い頃に船で移住した記憶があると本文中にありますので、一族の主要な面々は最後の最後の移住だったのでしょうね。

 著者の乾ルカさんは、現在〈ミステリーズ!〉で、忘れ物を巡る人間模様を描いた連作短編を連載中ですが、実は本作『ミツハの一族』とリンクしています。また、『メグル』との繋がりも明かされていますので、併せてお楽しみ下さい。


(2017年6月14日)



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