サンデー・タイムズのベストセラー第1位、日本語版も第3回翻訳ミステリー大賞受賞、第3回 AXNミステリー「闘うベストテン」第1位 という大好評をもって迎えられたオーストラリアの作家ケイト・モートンの『忘れられた花園』がようやく文庫になります。

 舞台はオーストラリアそしてロンドン、コーンウォール、時代は1900年代はじめから2005年と、空間的にも時間的にも大きな広がりを見せる、謎に満ちた物語です。
 かつて『秘密の花園』を読み、『嵐が丘』を読み『レベッカ』を読んで、胸を躍らせた方々ならきっと夢中になるはず……。

 鍵となるのは、亡くなった祖母のかたみの古めかしい一冊のお伽噺集、今はホテルとなったコーンウォールの壮大な館・ブラックハースト荘と敷地のはずれにあるコテージ、そして茨の迷路と封印された花園。

 こう書くだけで、すでにすべてを知っている私でさえわくわくしてきます。

 1913年、オーストラリアの港で、ロンドンから着いた船の乗客が去ったあと、たったひとり取り残されていた少女を港の職員が見つけ、自宅に連れ帰ります。小さな白いトランクと少女。トランクの中身はわずかな身の回り品と、お伽噺集が一冊。
 名前も思い出せないらしいこの少女を連れ帰った職員は、妻とふたりで彼女をネルと名づけて育てることに……。
 その後、妹たちが生まれ、長女として明るく育ったネルが21歳になった夜、父親は彼女に真実を告げます。ネルは、自分が何者であるのかがわからないという驚愕から、心を閉ざし、人が変わったようになってしまいます。
 時は流れ2005年、祖母ネルを看取った孫娘カサンドラに、祖母の友人が驚くべき知らせを持ってきます。
 ネルが彼女にイギリスのコーンウォールにある小さなコテージを遺してくれたというのです。なぜ、祖母はそんなコテージを持っていたのでしょう? いつ手に入れたのでしょう? 祖母の遺したノートと、かたみの古びたお伽噺集を手に、彼女はコーンウォールを訪れます。
 コテージは、今はホテルとなった豪壮な館・ブラックハースト荘の敷地のはずれ、崖の上にありました。そして、そこには茨の迷路と、閉ざされ忘れられた花園が……。
 カサンドラの祖母ネルはいったい誰だったのでしょう? ネルはブラックハースト荘とどんなつながりがあったのでしょう? 幾重にも重なる謎、最終章ですべての謎が明らかになるまで、まさに巻おくあたわずという言葉が相応しい極上の物語です。

 この作品の映画化権は刊行後間もなく売れています。買ったのはクリント・イーストウッドのプロダクションということはわかっています。映画化が実現しますように。
 以前 twitter 上で、Someone please please please make a movie based off of the book "The Secret Keeper" by Kate Morton  という叫びのようなつぶやきを発見したことがありますが、このThe Secert Keeper (「秘密」)の部分をThe Forgotten Garden(『忘れられた花園』) に替えて叫びたい! プリーズ、プリーズ、お願いです。

 文庫版には、単行本版巻末の訳者・青木純子さんによる熱のこもったあとがきのほかに、川出正樹さんに解説もお願いしました。どちらも、この作品に魅入られた方の溜息にも似た魅力的な読み物になっています。

*第3回翻訳ミステリー大賞受賞作
*第1位 第3回 AXNミステリー「闘うベストテン」(2011年)
*第7位『ミステリが読みたい!2012年版』海外篇
*第8位〈週刊文春〉2011ミステリーベスト10 海外部門
*第9位『このミステリーがすごい!2012年版』海外編

*サンデー・タイムズ・ベストセラー第1位
*Amazon.com ベストブック
*オーストラリアABIA年間最優秀小説賞受賞

●数々の書評から
魔力に満ちた一冊――ニューキャッスル・ヘラルド
最後の最後に明かされる真実。驚愕の真相とはまさにこのこと――カーカス・レビュー 読者を別世界に誘う壮大で豪奢な作品――NYデイリー・ニュース
モートンは読者を時に驚かし、時に当惑させ、そして徹底して楽しませてくれる――スター・テレグラム
あざやかな筆致、堪能すること間違いなしの作品――デイリー・エクスプレス
ダフネ・デュ・モーリアの完璧なまでの後継者――ル・フィガロ

ひねりの連続で展開されるモダンサスペンスだが、全編が古典名作へのオマージュに彩られている。……謎めいたゴシック風の舞台に語りのモザイクを凝らした傑作ミステリ。翻訳小説の粋を集めた一冊である。――鴻巣友季子
魔法のようなストーリーテリングで、物語を読み解く快感を心ゆくまで味わわせてくれ る。――大森望


(2017年5月15日)



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