日本探偵小説の爛熟期に数編の小説を以て斯界に名を知らしめた幻の作家・加田伶太郎をご存知でしょうか。

 昭和三十一(1956)年、加田伶太郎は記念すべき第一作「完全犯罪」を〈週刊新潮〉に発表します。資産家・雁金玄吉の邸宅に届いた英文の脅迫状と、奇怪な密室殺人――迷宮入となった十数年前の事件に四人の男が推理を競う本作は、第一作にして探偵小説のスタイルを間然なく完成させて、今なお高い評価を受ける傑作です。以降、加田は四つの短編を断続的に発表、翌年には「完全犯罪」を表題作にした作品集を講談社から刊行しました。
 本書の跋文には、かの江戸川乱歩が文章を寄せており、「加田伶太郎さんの作品は、ことごとく謎と論理の本格探偵小説である。論理遊戯の文学である」と評しています。

* * *

 そして、作品集『完全犯罪』の刊行から十三年後、書籍未収録の推理短編三編と掌編二編、別名義で発表した未完のSF一編を収めた『加田伶太郎全集』が桃源社より刊行されました。
 全集に付録された月報には、国産ハードボイルド小説の先駆者にして名匠と謳われる結城昌治のほか、平野謙、丸谷才一、三浦朱門たち探偵小説を愛読した文学者が寄稿しています。
 また、都筑道夫は解説で、坂口安吾の本格推理小説のなかでも傑作と名高い連作『明治開化 安吾捕物帖』と本書を列して、モダーン・ディテクティブ・ストーリイであると同時に、日本推理小説史上でもユニークな地位をしめる本と讃しています。

* * *

 この度、その『加田伶太郎全集』を装いも新たに、『完全犯罪 加田伶太郎全集』として創元推理文庫から刊行いたします。刊行は7月を予定しております。
 ご存知の方も多いように、実は、さる著名な作家の変名なのですが……来月発行予定のメールマガジンでも改めてご紹介しますので、続報をお待ちください。


(2017年4月27日)



ミステリ小説の月刊ウェブマガジン|Webミステリーズ! 東京創元社