今もっとも注目のミステリ作家の一人である芦沢央。2016年に発表した『許されようとは思いません』は各年末ランキングにランクインし、その切れ味鋭いホワイダニットが絶賛されました。さらにこの作品は第38回吉川英治文学新人賞の候補に選出されています。続けて発表した『雨利終活写真館』『王様のブランチ』に取り上げられるなど、その勢いは止まりません。
『今だけのあの子』は「女の友情」の裏に潜む、あっと驚く秘密を描いたミステリ短篇集です。

同じサークルの仲良しグループ。そのうちのひとりが結婚することになったけれど、なぜか恵だけ結婚式に呼ばれていない。どうして、ひとりだけ……。(「届かない招待状」)。
女子でなくてもこれは絶対味わいたくないシチュエーションですよね。そんな最悪な状況にどうしてなってしまったのか。友達の手前、自分だけ呼ばれてないとは言いづらい。恵は事実を隠して招かれていない結婚式に出席しようとします。新婦の真意、そして恵の運命は――。ここから鮮やかに反転する物語に必ず驚くはずです。

芦沢さんと打ち合わせを重ねていくうちに、色んな年代の女の友情をテーマに一冊を作ろう、と決まりました。
「女の友情」。この言葉はどんなイメージでしょうか。なんとなくどろっとしたような、色でいうと紫とか黒とか、そんな印象を持つのではないでしょうか。芦沢さんも私も女性ですが、そんなイメージにちょっと疑問を持っていました。ネガティブな印象が先行する一因として、進学、就職、結婚、出産など男性より女性の方がライフステージの変化を受けやすく、友情も途切れやすいこともあるのではないかと思います。やっぱり共通項がないと弾む話も弾まない。そうすると「女の友情」って続かないよね、恋愛や生活の後回しだよねってことになる……。でもそれって悪いことなのかな。今はもう連絡先も分からないけれど、あの辛いときに喫茶店で珈琲一杯で粘ってずーっと喋ったこと、その時間があったから今がんばれている、ってこともあるんじゃないか。私と彼女の人生、交錯した時間はわずかだったけれど、それは何にも代え難い貴重なパワーの源だったんじゃないか。「女の友情」ってそういう一面もあるんだと、私は思います。
芦沢さんは一冊を通して新しい「女の友情」を描き、タイトルにもその想いが込められています。

この物語は一篇一篇独立していますが、実はゆるく登場人物が繋がっています。「○話に出てきたこの人がこんなところに!」と驚いていただけるはず。物語では直接描かれていない、彼女彼らが辿ってきた道程も想像していただけたら嬉しく思います。

2017年4月7日 『今だけのあの子』担当編集者



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