今月の本の話題

2017.04.11

学問にも碁にも王道なし 『良い形に勝機は訪れる』

『韓非子』の一篇に、「どんな盾も突き通す矛」と「どんな矛も防ぐ盾」を売っていた楚の男が、客から「その矛でその盾を突いたらどうなるのか」と問われ、返答できなかったという話がある。もし矛が盾を突き通すならば、「どんな矛も防ぐ盾」は誤りで、もし突き通せなければ「どんな盾も突き通す矛」は誤りとなる。どちらを肯定しても男の説明は辻褄が合わない。そこから「矛盾」という言葉が出来た。また、人の世は様々な人の感情、意思などが、混ざり合って出来ていて、「これが正しい」といった個人の思いだけではどうにもならないことが多い。そんな時にも「矛盾」という言葉を使ったりする。

「矛盾」という概念は、論理学とか弁証法の話に発展するのだけれども、ここではそんな話をするつもりはない。 

 さて、健康法だとか、利殖だとか、この本を読めば、絶対に成功すると、体験談を交えて説くものが多々ある。その本の通りに行動して、上手くいくことは稀だけれども。囲碁にもまた、必勝法を説いた本が沢山ある。その本の通りに打っても相手がその通りに打たないので、旨くいかないと言う人もいる。それこそ最強の盾のつもりが、裏切られた気分になるのだろう。もちろん、本など読まずにひたすら実戦のみで強くなる人もいる。しかし本の場合、急に強くなることは稀でも、じっくりと醸造されていくように、着実に強くなっていくし、それが上達の近道でもある。そこに「矛盾」はない。

 武道には「型」というものがあり、初心者には退屈で我慢ならないのだが、それを憶えることで、凡人でも一定のレベルになることが出来るようになっていることは、よく知られているのではないだろうか。

 囲碁には、「悪い形」、「良い形」という表現があって、「悪い形」の典型がアキ三角とか陣笠形とか、ダンゴとか言われる働きの乏しい形のことで、「良い形」とは他の石との関連が良く、効率の良い形のことを言う。

 本書は、「良い形」をどうやって構築していくのかを説いたもので、どんな攻撃も防ぐわけではないが、打っていて気分は良いし、勝率も上がる。読んでみて、並べてみるのは、決して損ではないと思う。

 本は最終的に裏切らないのである。

(2017年4月11日)



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