お待たせいたしました。キム・スタンリー・ロビンスンの〈火星三部作〉のラストを飾る完結編『ブルー・マーズ』は、創元SF文庫より4月中旬に刊行予定です。

 とはいえ、第一部『レッド・マーズ』と、第二部である前作『グリーン・マーズ』の邦訳刊行からだいぶ間が空いてしまったので、ここであらためてシリーズを簡単にご紹介させていただきます。なお、『レッド』『グリーン』のストーリー展開については、渡邊利道氏による『ブルー・マーズ』巻末解説でくわしく触れておりますので、既読の方は(多少内容を忘れていたとしても)そちらを読み直せば、すぐに『ブルー・マーズ』を読み進めていけるかと思います。

〈火星三部作〉は21世紀前半から23世紀初頭にかけての200年超におよぶ人類の火星入植計画を、現実の科学的知見に基づいて限りなくリアルに描いた大河SF三部作です。
 太陽系第4の惑星である火星は、直径は地球の約半分、太陽との距離は地球の約1.4倍で一年はおよそ687日、一日は約25時間。そのままでは人間は生きてゆけない環境ですが、平均気温は-43℃と南極なみですが赤道付近では日中20℃を超えることもあり、地球の約0.75%ときわめて薄いものの大気があって隕石や放射線などを防いでくれるし、極冠や地下には大量の水が存在していて(過去には地表に水が流れていたとみられる痕跡も発見されています)、人類の最初の地球外移住先候補として現実に有望視されている惑星です。

レッド・マーズ 上
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 その火星に最初の入植者たちが到着するところから、〈火星三部作〉は始まります。苛酷な環境のなか(アンディ・ウィアー『火星の人』とその映画化『オデッセイ』でおなじみでしょうか?)、まずは居住施設をつくり、植物を育て、エネルギーと水を確保して生きるための環境をととのえる。そこから出発して、長い時間をかけて惑星の環境そのものを生物が住めるものへと改造してゆき、火星が赤い荒野から緑の大地へ、そして青い海をたたえた惑星に変容するまでが、三部作ではじっくりと描かれます。その荘厳な美をたたえた火星の景観のリアルな描写は、本書の第一の魅力と言えるでしょう。
 もちろん、新たな世界をテラフォーミングしていく上では人々の衝突は避けられず、火星と地球のあいだではさまざまな政治的・人間的ドラマが繰り広げられることになります。意見も価値観も異なる人々をどうやって調和させ、共生できる社会をつくりだしていくか……それは、惑星改造と同じか、ひょっとしてそれ以上に難しい事業かもしれません。その過程をじっくりと追って描いていくところもまた、本書の大きな魅力です。

グリーン・マーズ 上
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 そんな〈火星三部作〉の原著は、1992-98年にかけて刊行され、90年代を代表する傑作本格SFとして、またリアルな火星SFの決定版として、SF史上に輝く不朽の名作となりました。三部作はヒューゴー賞(2回)、ネビュラ賞、ローカス賞、英国SF協会賞受賞のほか、英語圏以外でも日本の星雲賞をはじめ、スペインとフランスで複数受賞するなど、世界中の読者に幅広く支持されています。

 なお、『ブルー・マーズ』の4月中旬刊行に先立って、『レッド・マーズ』『グリーン・マーズ』を新オビで重版いたします(デザインは変わりませんが、つるつるのPPコート仕様になります)。書店店頭には3月下旬から並び始める予定ですので、これを機会に未読の方もぜひ三部作をお読みいただければと思います。


2312 上
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 ちなみに、人類が太陽系全域に進出した24世紀を舞台に描いた同著者の『2312 太陽系動乱』(金子浩訳、創元SF文庫既刊)は単体で独立した長編ですが、内容や設定、テーマにおいて〈火星三部作〉をかなり強く踏まえており、事実上の続編といっても過言ではないと個人的には思います。こちらも合わせてお読みいただければ、よりいっそう楽しめるのではないかと思います。

(編集部SF担当 W.I)






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