フィンランドの首都ヘルシンキから北へ100キロ、風光明媚な湖水地方にある町ラハティが、この物語の舞台だ。
 ラハティ市ある、かつて魔物(メテリ)たちの住みかだったことからメテリンマキとも、岩場が黒々としていることから“黒が丘”とも呼ばれる丘で、一人の青年の死体が見つかった。見つけたのは雌牛に草を食べさせるために丘に登った少女エリーサ。町の公共サウナで働くヒルダの娘だ。

 死体はあたかも処刑されたかのように、縛られたうえに至近距離から銃で撃たれており、警察は密造酒ピルトゥの取り引きにからむ殺人と見たが、古株の巡査ケッキはどこかひっかかるものを感じていた。
 ラハティは、国じゅうがソ連に影響された赤衛隊、ドイツの支援を受けた白衛隊に引き裂かれた内戦の際に、激しい攻防を繰り広げられた場所で、白色勢力による新政府になった今でも、内戦の際に生じた亀裂は、人々の間に消えぬ爪痕を残していた。
 サウナで働くヒルダもその一人だった。長女のテューネは赤衛隊に加わったせいで、たった14歳で虐殺され、腕のいい靴職人だった夫も白衛隊に連れ去られ、解放されたものの、酒浸りの生活をおくるようになってしまったのだ。

 事件を、酒をめぐっての単純な殺人として片付けたい上司や同僚に逆らって、ケッキは密かに事件を調べていたが、殺された青年は、かつての赤衛隊のメンバーでも分け隔てなく採用しているラハティ鉄工業株式会社に勤めていたとがわかる。そして同じ工場の仲間の青年が、またしても……

2014年推理の糸口賞受賞。フィンランドの語られざる闇を描く注目のミステリ。

(2017年2月13日)



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