【この記事のポイント3点】
『エコープラクシア』は、時系列上は『ブラインドサイト』の後にあたる時期を描いているので、『ブラインドサイト』を先に読んでおいたほうが両作をより楽しめると思います。ただし物語としては独立しているので、必ずしもというわけではありません。
・下巻巻末に付した作中年表と、『ブラインドサイト』で登場した作中設定の用語集にあらかじめ目を通しておくと、前作の内容を簡単におさらいできます。
・下巻に収録した短編「大佐」は本編の予告編的な内容なので、本編より先に読まれることをお勧めします。



■『エコープラクシア 反響動作』あらすじ
太陽系外縁で宇宙船〈テーセウス〉が異星の知性体と接触してから7年――消息を絶ったはずの同船から届いた謎の通信を巡り、地球では集合精神を構築するカルト教団、軍用ゾンビを従えた人類の亜種・吸血鬼(ホモ・サピエンス・ヴァンピリス)ら、超越知性たちの熾烈な生存戦略チェス・ゲームが幕を開ける。最後の一手が放たれるとき、盤上に生き残るのは何者か?
星雲賞など全世界7冠制覇『ブラインドサイト』の続編にして、自由意志と神の本質に迫る究極のハードSF。現代版『ソラリス』ともいうべき世紀の傑作、待望の邦訳!

 本書の予告編となる「大佐」が12月に単体電子書籍版として刊行されてから早1カ月(紹介記事はこちら)。今年の翻訳SF最大の話題作、ピーター・ワッツ/嶋田洋一訳『エコープラクシア 反響動作』の発売が、いよいよ間近に迫りました。

「大佐」
単体電子書籍版
 本書『エコープラクシア』は、2014年度の星雲賞海外長編部門を受賞した前作『ブラインドサイト』の続編……というか、いわば「姉妹編」的な内容。太陽系外で異星生命体とファースト・コンタクトを行なっていた陰で、地球では何が起こっていたのか……というストーリーです。前作と設定を共有していますが、物語としては独立しており、登場人物もほぼ重なりません。

 商売人としては、前作『ブラインドサイト』を読まなくても楽しめますよ……と言いたいところですが、読者としてはやはり、読み進めていくうちに前作の内容に新たな意味が生まれるところの面白さもあるので、できれば前作と合わせて読むのが、一番楽しめるのではないかと思います。

 ただ、「そんな時間ないよ」あるいは「前作をよく憶えていない」という方のために、下巻巻末に前作の作中年表と用語集を付しました。そちらに目を通していただければ、さほど困難なく本作の物語に入れる構成になっています。

 ちなみに、下巻巻末収録の短編「大佐」は、『ブラインドサイト』の後・『エコープラクシア』の直前の時期を舞台としており、予告編的な内容となっているので、本編よりも先に読まれることをぜひおすすめします。

 これ以上は興を削がないよう、ぜひご自分の目でお確かめください……というところですが、ひとつだけお伝えいたしますと、本作は「誰が」「何の目的で」「どんな行為を犯したのか」を解明するという謎についての魅力も大いにあります。手がかりや伏線はすべて、本文中にちりばめられています。読みすすめていくとある時点で、曖昧に見えていた物語の様相が(前作『ブラインドサイト』も含めて)一気にクリアになる……。そんな驚愕の体験をぜひ楽しんでいただければと思います。

 最後に、著者が原書刊行1カ月後にソーシャルニュースサイトRedditで行なった公開読者Q&Aの前書きから、一部をご紹介いたしますと――

『エコープラクシア』は、高校3年生が授業で読解させられるようなたぐいの作品ではない。つまり、確かにシンボルやメタファーなどなどが含まれてはいるが、本書はやはり物語であり、そこにはキャラクターがいるのだ。わたしにとっての本書は少なくとも、思考を刺激する物語――わたしが書くものの大半は、読者の思考を刺激することを目指している――だが、煙に巻こうとしたことは一度もない。

それでは、ごゆっくりお楽しみください。

(編集部SF担当 W.I)

(2017年1月25日)



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