その1 凝りに凝った構成、結末の衝撃

 第二次世界大戦中のアメリカを舞台にしたパルプ・フィクション、その日系人著者へのアメリカ人編集者からの手紙、そして未刊行のハードボイルドの原稿――本書『青鉛筆の女』はそれら三つのパートで構成されています(ちなみにタイトルの「青鉛筆」は、編集者が原稿にコメントを書いたりする際に使う筆記具のことで、日本でいうところの「赤鉛筆」です)。
 当然、この三つのパートがどのように結びつくかが肝になるのですが、本書はとにかくこの仕掛けが素敵。そのうえ、結末の衝撃たるや……。再読すると、著者のたくらみに舌を巻かずにはいられません。
 詳細を語りたくて仕方ないのですが、それは読んでのお楽しみということで我慢して、ここでは初めて本書を読んだときの訳者さんの感想をご紹介します。

 何よりもまず、構成の見事さに舌を巻いた。よくある入れ子式の作品なのかと思って読みはじめたのだが、そうではなく、たとえて言えば重箱においしいお料理が詰めてあるという感じだった。お料理を喜んでぱくぱく食べて全部たいらげると、初めて重箱の底が見えてくる。そしてわかってみると、それは……(以下略)


その2 読者モニターさんからの支持率96.3パーセント!

 本書は刊行前にゲラ(校正刷り)を、読者モニターさんに読んでいただきました。余談ながら、今回の読者モニター募集は、タイトルにちなんで青鉛筆のおまけつきでした。アメリカの編集者気分で気になったところを青鉛筆でチェックしてくださいという趣向です(『万年筆の女』なら絶対にやりませんでした)。
 さて、そのモニターの結果は……96.3パーセントの方に面白かった/素晴らしかったと感想をいただけるという、驚きの支持率! そのコメントの一部をご紹介しますと――

・ミステリーの枠を超えた超絶技巧を駆使した作品であることは間違いない(50代、男性)
・ああ、読み終わってしまった! 一気に読み進めてしまった私は、内容を反芻し、咀嚼しながら、まんまと、もう一度読みたくなった(20代、女性)
・こんな最高に面白い話、一晩や二晩で終わらせるなんてとんでもない!(女性)
・からくりに気がついてから味わえる二度目、すべてを把握した上で読む三度目はまた違う味わいに。1冊で三度おいしい、奇跡のミステリー!(40代、女性)
・全てが計算され尽くされている……多分、僕はこの小説をあと三回読み直すと思う(50代、男性)

その3 現代社会に通じる“テーマ”

 ミステリとして抜群に面白い作品でありながら、本書にはいくつかのテーマが潜んでいます。そのうちのひとつは、この五、六年で急激に感じられるようになった、現代社会に通じるもの。ミステリとして単純に楽しんでいただければ翻訳版の編集者としてこの上ない喜びなのではありますが、もしこのことが気にかかりましたら、本書の7ページの三つの文章を念頭において読んでいただき、また237頁最後から2行目に出てくる単語にご注目いただければと思います。

(2017年2月22日)



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