みなさまこんにちは。先日はイバン・レピラ『深い穴に落ちてしまった』ゲラ版読者モニターへたくさんのご応募ありがとうございました! 読者モニターに選ばれた方からたくさんの“熱い”コメントをいただきました! なかには締切後に、「どうしても感想をお伝えしたくてメールします」という方まで。大感激でした!

さて、この作品の担当であるわたくし編集者Sと、翻訳された白川貴子先生とで感想コメントを抜粋いたしました。ほんとうはすべての方の、すべての文章を掲載したかったのですが、なんと全部で2万字! になってしまいましたので、泣く泣く短くさせていただきました。

本のあらすじや内容紹介は詳細ページをご覧ください。
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488010676


*読者モニターさんの声*

◎ツクヨミさん
「不意にどきっとさせられる場面があったり、意味深なやり取りにあれこれ想像してしまったりして、単調と感じる暇はありませんでした。(中略)芯となるストーリーからなにげない会話の端々まで、読み手によってさまざまな解釈ができる作品だと思います。今の自分を映す鏡となってくれる、まさに「現代版『星の王子さま』ですね」

◎かもめ通信さん
「不思議な章番号や文章に隠された暗号などで読者を挑発するだけでなく、 批評家からカミュを連想させるとも言われているというその作風は、不条理も暗喩も警告も告発をも含みながら、残酷なおとぎ話のような寓話で読む者の想像力に挑んでくるようだった」

◎ココさん
「一体どこまでが現実でどこからが幻覚なのか、境界線が曖昧になっていく……何とも不思議な読後感。その癖、読み終わって少しするともう一回読みたくなって……。読むたびに、前回サラッと読み飛ばした部分が気になったりして、何とも不思議な感じのお話でした」

◎K. Oさん
「ストーリーを追うというよりは、読むことで何かを見つめ直すような、何かに気づき、つかもうとするような、そんな本だった。大人のための寓話ってこういうことか!(中略)いつのまにか読みながら、自分だったり、社会のあり方だったりを反映させて考えていた。また時間が経って読み直すと、違うことに気づくんだろうな、と思わせる本」

◎あなみさん
「一度だけでなく何度も読ませていただいた。噛めば噛むほど違う味の出る、そしてちょっぴり口に苦いような、そんな作品だった。テンポも良く非常に読みやすい翻訳だったと思います」

◎賽子さん
「乙一を初めて読んだときに感じたこと、『一体これは何なんだ?』の再現でした。勿論、作品的には全然違いますが、その新奇さたるや、どう表現していいか全くわかりません。(中略)訳者あとがきもよかったです。特に『訳しながら考えさせられた点』の列記が訳者のこの作品に対する真摯な姿勢を感じました」

◎大木雄一郎さん
「本作を寓話とすれば、兄弟がいる深い大きな穴にも、兄弟の行動にも、なんらかの寓意があるはずである。その寓意は、読み手の背景によって少しずつ変わってくるのかもしれないが、読み終えたあとにはきっと、人として、目を背けるわけにはいかない大切な何か、に思いを馳せることだろう」

◎imasatoさん
「読み返すたびに幾通りもの解釈が出来、新たな発見が生まれる一冊でした。この短く単純な物語の中に、実に多くの仕掛けや暗示が施されていることに戸惑い、何度も何度も読み返しました」

◎新月雀さん
「不条理な物語に、世界の情勢を重ねるということで『ゴドーを待ちながら』を思い出す。ゴドーはいつまでもやって来ないのと同様に、素数が割り振られた章は無限のループを繰り返す。終わりはやってこない」

◎milano2009さん
「何度か読み返してみると、熟成していくワインのように、物語の色合いが変わる。これはなんだろうと、読んでしまう。怖い話でもあり、実体験のようでもあり、寓話なのに、どこかの町で実際に起こった出来事のようでもある。個の話から、世界に繋げるという意識の深さに驚かされる。愛があり、憎しみがあり、怒りがあり、そして、教訓もある。わたしたちはどこにいくのだろうか、何をしたらいいのだろうか、としみじみと考えさせられた」

◎ryonさん
「色々な方向から見ることで感じることも変わり、またそれで悩まされる。まだ気付いていない仕掛けがどこかにあるかもしれない。はっきりとした答えが出ないから、何度も何度も読みたい、また少し時期をあけて読みたいと思う作品だった」

◎S.Nさん
「これは、革命を促しているのだろうか。さぁ、立ち上がろうと。新しい世代を送り出せと。そんな不穏なことを考えてしまった」

◎ユキシゲゼンニさん
「寓話を苦手としているぼくだけど、この作品の結末には感動した。(中略)何より結末で明かされる驚きの事実は、少なくともぼくにとっては寓話の感動ではなく、いってみれば本格推理小説のように、コツコツとはめ合わされてきた論理のパズルが、最終的に予想もしてなかった絵を描いてみせた時のような爽快感があった」

◎BtoZ読書会さん
「どの章を見ても十人十色の解釈がありそうな物語で、他の人の感想がとても楽しみです。(中略)出版されれば必ず都内のどこかの読書会で取り上げられると思う」

◎T.T.さん
「読み終えても尚、余韻が心に残る作品だが、物語というのは一度読み終えてしまったら、おしまいなのではなく、読者の心の中ではそこがはじまりなのだ、とも教えられた」

◎KiSさん
「せめて、ぼくが生きている間は、ここが深い穴の底にあっても、救いがある世界であって欲しい。そう思わずにはいられませんでした」

◎JJMaloneさん
「比較的短い作品ということもあり、最後まで一気読みしてしまった。翻訳は兄弟、特に弟が壊れていく様子を見事に描写していて素晴らしかった。暗号を日本語に翻訳するにあたっての工夫も見事で、とても楽しめた」

◎C/Tさん
「今の私では見落としたメッセージを、来年や再来年の私なら見つけられるかもしれない。そう思うとまた読んでみたいとも思いました」

◎ちゃぼさん
「奇妙な、とても奇妙な物語。穴に落ちた兄弟の姿を描いているのだけれど、……その穴とは、もしかしたら私たちの家の中にあるのかもしれない。この世界のあちこちにそんな穴があって、もしかしたら私たちはその穴の中で暮らしているのかもしれない」

◎柴田陽さん
「大人のファンタジーという言葉では片づけれられない読み心地。奇妙な味にもほどがある」

◎締切後にメールで感想を伝えてくださったIさん
「どうしても感想をお伝えしたくてメールします。(中略)冒頭の引用も物語の一部、奥付の後まで物語は続いている。終わりと始まりを繰り返しながらうねって誕生する何かを予言しているようにも見える。
謎と閉塞と希望の日々をあなたにも」


ほんとうにたくさんの素敵なコメントをありがとうございました!!! 

* * *


さて、ここからは日本語版編集の際の裏話を少々披露したいと思います。

『深い穴に落ちてしまった』にはさまざまな「仕掛け」があります。わたしが編集を担当した本の中でも、一、二を争う複雑な本で、それをしっかり日本の読者さんにも楽しんでいただけるよう、なるべく原書に沿うようなかたちで工夫いたしました。たとえば原書の意外なページにアルベール・カミュの文章が引用されていて、「まさかこんなところに!?」と驚きました。日本語版にも掲載いたしましたが、どこのページに引用文があるのかはぜひ本を買ってお確かめください。

文中に暗号まであります。暗号があることは、英語版の読者さんが、「こうすれば暗号が解読できるよ!」みたいな記事をブログに書いてくれていたおかげで判明しました。グローバルや! 白川先生からメールで、「本文に暗号がありました!」とお知らせいただいたときはびっくりして、興奮しましたね~。思わず編集部中にふれまわってしまった……。

そして、白川先生と弊社会議室でスペイン語版と英語版を確かめてみたところ、確かに解読できる! いやー、およそ数時間にわたる暗号解読の時間は、それはもう大変でしたが楽しい時間でした。暗号を解く手がかりを書いてくれた、親切なブロガーさんに感謝を捧げました。

英語版には、暗号を解く手がかりがかなりわかりやすく示されていたので、それに倣って日本語版にも仕掛けと手がかりを配置することにしました。ふたりで試行錯誤すること数日。やっぱり言語の違いが大きいので、まったく同じ解読方法にはできなかったのですが、それでもなんとかやりとげた感でいっぱいです。白川先生の見事な翻訳とアイディアのおかげでした。そして、ゲラ版読者モニターさん募集の際に、おまけとして「作中の暗号解読に挑戦してみませんか?」という企画を実施してみることにしました。大勢の方が挑戦してくださいましたが、正解されたのは10名でした! 挑戦してくださったみなさま、ありがとうございました。

わたしたちが気づいていない仕掛けや寓意がまだあるかもしれないと思わされる作品です。読者モニターさんのコメントにもあるように、作品の解釈も人それぞれだと思います。著者のイバン・レピラはインタビューでこのように答えています。「この本から何を読み取っていただくかは、読者それぞれの自由にお任せしたい」。正解はありませんし、寓意についてまったく考えないで読むのもまた違った楽しみがあると思います。読書会では最適な課題書になるのではないでしょうか。それぞれの読み方で本書を味わっていただければ幸いです!

イバン・レピラ『深い穴に落ちてしまった』は1月21日ごろ発売です。どうぞよろしくお願いいたします!
(東京創元社S)


(2017年1月20日)



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