囲碁は、碁盤(361路)のどこに打っても良いのだが、最終的に囲った地の多い少ないで勝負は決まる。初心者は、序盤の数手をどこに打てば良いのか、迷うところである。俗に一に空き隅、二に辺またはカカリ、そして中央へ展開と言われる。そうした方が、地が出来易いからである。また、囲碁は「読み」のゲームであり、自分の打った手に相手がどう打ってくるのかを「読む」ことが重要である。言わば、「推理」のゲームとも言える。

 碁盤には、九つの星がある。特に中央の星を天元という。江戸時代初期の碁打ちに渋川春美という人がいた。彼は「宇宙の真理は天元にあり」と言って、初手を天元に打ったそうだ。ただ、結果は良くなかったようで、幕府の天文方に転身し、結果を残した経緯は、小説「天地明察」に譲る。

 そんな訳でもないのだろうが、囲碁の発展した江戸時代には、「星打ち」は余り見られない。昭和初期、呉清源と木谷実による「新布石」の研究から星打ちが脚光を浴びるようになった。堅実な布石からスピード重視の布石であった。昭和後期には、武宮正樹の「宇宙流」が一世を風靡した。「四隅とらせて碁を打つな」の格言を無にしてしまったのだ。一流の相手に四隅を与えて、勝ってしまったのだ。この「宇宙流」を封じたのは、イ・チャンホとユ・チャンヒョクである。それ以降、プロの対局には「星打ち」余り見かけられなくなった。

 しかしながら、アマにとって「星打ち」は重要である。初心者には特に「星打ち」を勧めたい。置碁は、星に石を置いてハンデとしている。また星の特性は勢力が強く、模様を作るのに適しているが、地には甘い。この兼合いをマスターしなければ強くなれないのだ。

 一般に、剣道、柔道そして茶道など、伝統に支えられたものには、「型」というものがある。「型」を憶えることで、誰でも(才能がなくとも)一定のレベルに到達できるという考え方である。大リーガーの一寸変わったフォームで剛速球とか、豪快なホームランとかとは、違う考え方であろう。

「星打ち」は一つの「型」であり、相手への攻めと、地を作る最終目的との兼合いが勝敗を分ける。ただ「型」をある程度マスターしても、そこに至る「読み」がなければ、それ以上の上達は望めない所以である。

 本書は、「星打ち」、三連星の基本から、「読み」を助ける変化図を、問題と共に考えられるように構成されている。言わば正眼の構えのような本である。

(2017年1月10日)



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