今月の本の話題

2016.09.06

残酷な真実が、照らされる 貫井徳郎『ミハスの落日』[2016年9月]

“企み”の名手・貫井徳郎が放つ、傑作ミステリ短編集をご紹介します。
まずは表題作のあらすじから。

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スペインはミハスに住まう大富豪に突如呼び寄せられたジュアン。老紳士が語るのはジュアンの亡き母との苦い記憶だった。三十年の月日を隔てて密室殺人の謎が明かされる――。

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この作品集の舞台は、すべて外国です。
スペインのミハス、スウェーデンのストックホルム、アメリカのサンフランシスコ、インドネシアのジャカルタ、エジプトのカイロ……。ミステリの題材としてはおなじみの土地から、珍しい国まで様々な都市が謎解きの舞台となっています。
実際に著者がその土地に足を運んで描いたからこそ、各作品には名所や名物だけでなく、空気や温度など異国情緒がたっぷりと閉じこめられています。各国を訪れた際のエピソードは、「あとがき」に多く語られていますので、こちらもどうぞお楽しみに。

また本書収録の「サンフランシスコの深い闇」は、『光と影の誘惑』(創元推理文庫)収録の「二十四羽の目撃者」の続編となっています。『光と影の誘惑』を読まれた方は、ツイてない保険調査員が新たに探る“疑惑の未亡人”の事件をぜひお読み下さい。コメディ風の味付けがされたこの作品は6月に文庫化された『ドミノ倒し』に通じる読み心地かもしれません。

しかし、作品を流れる異国情緒に身を委ねていると、鋭い切れ味のラストにハッと頬を叩かれるのです。どのラストも深い余韻を残しながらもその土地ならではの謎、その土地ならではの真相で読者を衝撃の渦に突き落とす手腕は、さすが。五つの国に響く悲痛な叫びに、耳を傾けてください。村上貴史さんによる解説も新潮文庫から大幅加筆にてお贈りします。『ミハスの落日』だけでなく作家・貫井徳郎についてあますところなく語られた解説も読み所のひとつです。
驚愕のどんでん返しにつぐどんでん返しに満足すること間違いなしの一冊です。

(2016年9月6日)



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