今月の本の話題

2016.07.05

孤独な少年と三流魔導士の出会い。師弟の絆を描く本格ファンタジイ。佐藤さくら『魔導の系譜』[2016年7月]

 世界のあらゆるものは人にとって不可視の力で成り立っている。その力の流れを〈魔脈〉と呼ぶ。魔脈はこの世界を構成する力の流れであり、世界の在り方であり、世界の理である。
 人の中には稀に〈導脈〉と呼ばれる器官を持って生まれてくる者がある。その導脈を通じて魔脈と繋がり、その力の一部に自分の意志を通し、自分が思い描く現象を引き起こす。これを魔術という。また、これを行うことのできる導脈を持つ人間のことを魔導士と呼ぶ。
 ラバルタでは最も下賤な身分だ。

 人一倍熱心でありながら、導脈が脆弱なために一流の魔導士になれず田舎で私塾を開いている三流魔導士レオンは、ラバルタの首都リアンノンにある魔導士の最高機関〈鉄の砦〉からひとりの少年を託される。
 ラバルタでは差別されている流れの民セルディア人の少年ゼクスは、幼くして家族をラバルタの騎士に皆殺しにされた孤児だった。桁違いの潜在能力が認められ、いったんは〈鉄の砦〉に引き取られたが、魔導を学ぶことをひたすら拒むゼクスに、〈鉄の砦〉も音を上げてしまった。なまじ力があるだけに、その使い方、制御の仕方を学ばないままでいると、危険な存在になってしまう。
 そこで、自らは三流魔導士でありながら、独自の教え方で弟子の才能を開花させたことがあるレオンに白羽の矢が立ったのだ。頑なに他人を拒み、学ぶことを拒否する少年は、レオンの辛抱強い指導の下で才能を開花させていった。
 やがてゼクスはその力を認められて〈鉄の砦〉に再び召喚されるが……。

 凄まじい力をもちながら、周囲を拒絶する孤独な少年と、三流といわれながらも懸命に生きた魔導士の師弟の絆。激動の時代を生きる人々を描いた、第一回創元ファンタジイ新人賞優秀賞受賞の本格異世界ファンタジイ。

(2016年7月5日)



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