●最新刊『魔導の黎明』

 第三王子アスターが魔導士たちを率いて王国軍から離反し、カデンツァの領民と共に戦い、自治を勝ち取った内戦から十年、ラバルタ国内での魔導士への迫害は増すばかり。ラバルタ中の選りすぐりの魔導士を集めているはずの〈鉄の砦〉も、未熟な若者まで戦闘にかり出さなければ間に合わないほど人材が払底していた。
 そんなある日、資料室勤めの魔導士ダリエシが奇妙なことに気づいた。〈鉄の砦〉に入ってくる人数と在籍している人数が数百人単位で合わないのだ。多少の人数なら間違いもあるだろう、だが数百人となると……それだけの魔導士がいったいどこに消えてしまったのか。ダリエシは、師であったレオンの親友で、ラバルタ軍の諜報部隊を指揮している騎士ガトーを訪ねることにした。
 一方その頃、隣国エルミーヌの魔導士養成学校で指導にあたっているレオンのもとに、かつての弟弟子グレイが訪ねてきた。そしてその日から、レオンは姿を消してしまう。レオンはいったいどこに消えてしまったのか。心配でいてもたってもいられないゼクスはレオンの行方を捜すのだが……。

 レオンはどこに行ったのか? ラバルタと自治区の衝突は回避できるのか? そして魔導士たちの未来に待つのは? 謎を解く鍵はレオンの師セレスが遺した日記に。

 迫害されながらも逞しく生きる魔導士たちの姿を描き、感動と共感を呼んだ〈真理の織り手〉シリーズ、ついに最終巻。



魔導士だというだけで、なぜ迫害されなければならないのか?

『魔導の矜持』

 第三王子アスター率いる魔導士たちの反乱と内戦、そしてカデンツァ自治区の独立以来、ラバルタ王国における魔導士の立場は悪化の一途を辿っていた。
 デュナンはそんなラバルタの片田舎にあるミオ師の私塾で学ぶ、おちこぼれ魔導士の卵だ。魔導の力はあるのに、どうしても呪文に集中できず、つい周囲を流れる魔の動きが気になってしまうのだ。
 そんなある日、ミオ師の私塾が魔導士への逆恨みに燃える村人たちに襲われ、師や兄姉弟子、そしていつも優しかった親友のエステルまでもが無残に殺されてしまう。
 エステルの最後の言葉に従い、パスカル、ルーティ、そして問題児のアースという生き残った三人の幼い弟妹弟子を連れ、デュナンは必死で森の中を逃げる。
 だが、所詮は子どもの足、魔導士狩りの人々に追われ逃げ回ることに疲れきり、力尽きた彼らを救ったのは、バースフィールドの領主の庶子ノエと、領地の森番で戦いの記憶に怯えて生きる元騎士のガンドだった。彼らは四人が魔導士とは気づかず助けてくれたのだ。自分たちが魔導士だとばれれば、放り出されるか、悪くすれば魔導士狩りの騎士の手に引き渡されるかも知れない。咄嗟に自分たちは魔導士に追われていると嘘をつくデュナンだったが……。

 苛酷な運命に逆らい、自らの道を切り拓こうとする若者の姿を描く、『魔導の系譜』『魔導の福音』に続く〈真理の織り手〉シリーズ第三弾。



魔導が禁忌とされてきた国を舞台に、
因習や偏見と闘う青年を描くファンタジイ。

『魔導の福音』

 朗々とした声が体中に染みわたるような気がし、周囲の動物たちの息遣いや植物の鼓動まで聞こえて来るような気がした。まるで世界と自分が一体となり、境目がなくなるような不可思議な感覚に包まれた。
 自分が大地を駆け抜けていく獣になったような気もしたし、大空を飛んでいく鳥になったような気もした。自分というものが世界に溶け出すような、あるいは空も大地もなくなった何もないところに、ひとりぽっかりと浮かんでいるような……。

 エルミーヌの王都リムリアにある王立学院で学んでいたカレンスは、父が危篤だという知らせを受け、急ぎ故郷に帰った。五年前、妹リーンベルが、“魔物棲み”だとわかり若い命を散らしたとき、守ってやることもできず、逃げるように都に向かったのだ。久しぶりの故郷。だが、死を前にした父が彼に託したのは、余りに重い秘密だった……。
 若くして父の後を継いだカレンスは、優柔不断なエルー領主と、狂信的な聖導院長とに挟まれ神経をすり減らす毎日。おまけに父に託された“秘密”が彼を押しつぶす。
 一方リムリアには、隣国ラバルタから来た魔導士使節団が滞在、魔導技術の受け入れを巡り、受け入れ賛成の女王側と反対派との間に対立が起きていた。

 魔導が禁忌とされてきた国北の大国エルミーヌを舞台に、新たな道を切り開く青年の闘いと友情を描く『魔導の系譜』続編。



孤独な少年と三流魔導士の出会い。師弟の絆を描く本格ファンタジイ。

『魔導の系譜』

 世界のあらゆるものは人にとって不可視の力で成り立っている。その力の流れを〈魔脈〉と呼ぶ。魔脈はこの世界を構成する力の流れであり、世界の在り方であり、世界の理である。
 人の中には稀に〈導脈〉と呼ばれる器官を持って生まれてくる者がある。その導脈を通じて魔脈と繋がり、その力の一部に自分の意志を通し、自分が思い描く現象を引き起こす。これを魔術という。また、これを行うことのできる導脈を持つ人間のことを魔導士と呼ぶ。
 ラバルタでは最も下賤な身分だ。

 人一倍熱心でありながら、導脈が脆弱なために一流の魔導士になれず田舎で私塾を開いている三流魔導士レオンは、ラバルタの首都リアンノンにある魔導士の最高機関〈鉄の砦〉からひとりの少年を託される。
 ラバルタでは差別されている流れの民セルディア人の少年ゼクスは、幼くして家族をラバルタの騎士に皆殺しにされた孤児だった。桁違いの潜在能力が認められ、いったんは〈鉄の砦〉に引き取られたが、魔導を学ぶことをひたすら拒むゼクスに、〈鉄の砦〉も音を上げてしまった。なまじ力があるだけに、その使い方、制御の仕方を学ばないままでいると、危険な存在になってしまう。
 そこで、自らは三流魔導士でありながら、独自の教え方で弟子の才能を開花させたことがあるレオンに白羽の矢が立ったのだ。頑なに他人を拒み、学ぶことを拒否する少年は、レオンの辛抱強い指導の下で才能を開花させていった。
 やがてゼクスはその力を認められて〈鉄の砦〉に再び召喚されるが……。

 凄まじい力をもちながら、周囲を拒絶する孤独な少年と、三流といわれながらも懸命に生きた魔導士の師弟の絆。激動の時代を生きる人々を描いた、第一回創元ファンタジイ新人賞優秀賞受賞の本格異世界ファンタジイ。

(2018年6月11日/2016年7月5日)



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