いまから35年前の1981年に刊行された『アリスの国の殺人』、翌82年に第35回日本推理作家協会賞を受賞した傑作ミステリです。そのシリーズ最終刊にあたるのが、『残照 アリスの国の墓誌』となります。
 舞台となる「蟻巣」が店を構えるのは、新宿のゴールデン街。およそ2000坪に200軒以上の飲食店がつらなっている飲食街として知られ、夜な夜な飲み歩く著名人の姿も少なくないとか。
「蟻巣」のママをつとめるのは、声優として活躍する近江由布子、さらに看板猫にチェシャ。映像関係者や出版関係者、とりわけミステリ好きの客が集まり、実際の事件やらミステリ作品について議論を重ねることも多い。『アリスの国の殺人』『ピーターパンの殺人』など、主立った舞台となるだけでなく、可能キリコ(スーパー)も一時期店をお手伝いしたりと、各シリーズに織を触れて登場する、辻作品には欠かせない店だといえます。

 そんな「蟻巣」もいよいよ閉店(ママの由布子が夫の介護をするため)がきまり、大家に鍵を返却するまでの最後の数時間が今作品のお話しです。店に集まった、可能克郎、新谷知久などの常連客は、数日前から姿を消していたチェシャの姿と、チェシャを可愛がっていたマンガ家の故・那珂一兵を思い出していた――。これまで語られてこなかった、那珂一兵がかかわった二つの事件の謎を、酒の肴がわりに議論し始めた面々。完全に店を閉めるまでのあいだ、その謎を解くことができるのか? 熟練の名手が手掛けた、シリーズ最終巻をぜひお楽しみ下さい。

IMG_4002.jpg 写真は『残照 アリスの国の墓誌』と大和書房版『アリスの国の殺人』

(2016年6月6日)



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