ひとから見下されるような仕事をしている勇吾と、大手コンサルタントを辞めて彼の許に居候する宗介。
それぞれ暗い過去を持つふたりの青年に訪れる五つの事件、出会いと別れ。

『八月のマルクス』で第45回江戸川乱歩賞を受賞、『あぽやん』が第139回直木賞の候補となりTVドラマ化もして話題になった著者が、創元推理文庫に登場です。

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 宗介とは半年前、街で偶然再会した。学生時代の友人で、ひとから見下されるような仕事をしている僕とは違って、将来を嘱望されていた。その彼が大手コンサルタントを辞めて、行くあてもないと言う。仕方なく一晩だけ泊めるつもりが、宗介はその後も居着いている。今ではうちに居候しながら、ヨガの修行をして暢気に日々を過ごしている。
 そんな彼は、僕が仕事で遭遇した事件を持ち帰ると、瞬く間に解決していく探偵へと姿を変えるのだ。だけど、僕は知っている。宗介自身が誰より深い悩みを抱えていることを……。

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 本書の主人公は、語り手である「僕」こと勇吾という青年。学生時代の友人である宗介を自分の許で居候させています。
 頭脳明晰で人好きのする性格を持ち、大学生の頃から将来を期待されていた宗介。その彼が、今では就職した大手コンサルタントも辞めて、居候に身を窶しています。果たして、彼の過去に何があったのか?
 そして、主人公である勇吾も、暗い過去を抱える一人。勤めていた会社をある事情から辞職、ひとから見下されるような仕事だと自ら言いながらデリバリーヘルスの店長として働いています。店長と言っても、普段の業務は店で働く女性たちの出勤管理のみ。渋谷のはずれ、桜丘町の雑居ビル内にある小さな事務所で、店番および電話番をして日々を過ごしています。

 勇吾の周囲で起きる事件の数々、居候である宗介は素人探偵となって解決していきます。そして、事件を通じて、すこしずつ明らかになる宗介の秘密。今まで行動をともにしてきて、幾度も助けられてきた勇吾が、彼のために何ができるのか。終盤では、それまで受け身でいた勇吾が宗介のために行動を起こすのが読みどころとなっていきます。
 何より、彼らの物語が全編を通じて爽やかに描かれていることが、本書の最大の魅力です。暗い過去を引き摺るふたりの他人へ向けるやさしさが、希望を感じさせてくれる一冊です。

 カバーイラストは、書籍の装画だけでなく漫画家としても活躍されている紀伊カンナさんに手掛けていただきました。
 ぜひ最後まで読み終わった後に改めてご覧いただきたい、素敵なカバーイラストになっています。

(2016年5月9日)



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