大阪府警薬物対策課の刑事・三田はあるきっかけで、バー『スクウェア』で謎めいたバーテンダー「名無しのリュウ」と、店の常連で元ボクサーの宇多島と出会う。三田は度々店を訪れるようになるが、彼が追う薬物絡みの事件の陰にリュウたちが見え隠れし始め……。『スクウェア』を舞台に繰り広げられる、友情と駆け引き。一癖ある男たちの活躍を鮮やかに描く、連作ミステリ第1弾。(単行本版タイトル『スクウェア〈I〉』改題・文庫化)

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舞台は大阪・梅田のお初天神。行き止まりの路地にひっそりと佇む、ショットバー『スクウェア』は、昭和初期らしいレンガでこしらえた建築に、分厚い木の扉だけが新しく、店名の文字が消えかかっている看板がある、といった外装です。
店内は八人掛けのカウンターしかない、ささやかなもの。落ち着いた照明の中、若いバーテンダーが出迎えてくれます。洗いたての糊の利いたシャツを思わせる爽やかさがありつつ、どこか謎めいた彼は「名無しのリュウ」。そのリュウと親しげな会話を交わすのが、常連客である元ボクサーの実業家・宇多島です。

そんな彼らと大阪府警薬物対策課の刑事・三田が出会ったことで、物語の幕が開きます。「休みの前日は痛飲し、決まった店では飲まない」ことを信条としていた彼が、初めて居心地の良さを覚えた店が『スクウェア』でした。
リュウや宇多島と交流を重ねる三田。しかし、三田が追う数々の薬物絡みの事件の陰に、リュウたちが見え隠れし始め、彼は疑念を抱きます。彼らは、三田にとって味方なのでしょうか、それとも敵なのでしょうか?
傷と影を抱える格好良い男たちを鮮烈に描くミステリを、どうぞお楽しみください!

(2016年3月7日)


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