今月の本の話題

2016.01.06

打ち壊された偽りの平和。終わりなき争い。次の世代へと繋ぐ希望。 著者の最高傑作『滅びの鐘』乾石智子[2016年1月]

 ときはゲダントゥル王の御世、王都ローランディンの若き〈歌い手〉タイダー。王家の覚えもめでたい稀代の歌い手。被征服民カーランド人、支配階級であるアアランド人からは虐げられ蔑まれるカーランド人ながら、並びなき腕前の持ち主。美しい妻、子どもにも恵まれた。だが、そんな〈歌い手〉を妬む者がいた。アアランド人の裕福な商人、歌い手、そしてゲダントゥル王その人だった。若きタイダーを襲った過酷な運命、それは……

 そして時は過ぎ、四百五十年以上の後のこと……

 北国カーランディアの遅い春、まだ雪がちらつくなか、王宮前広場から市場へと走る目抜き通りを、混雑する人をおしわけて、一人の男がやってきた。銀の髪、深緑の目、いかつい顔立ちの、小柄ではあるが屈強そうな初老の男。怒りの火花を散らし、身体中に紫電の網目を這わせて突進してくる。男の目指す先は築山の上に築かれた鐘楼。番をする兵士たちには目もくれず、階段をのぼる。男の目の前にあるのは四百三十九人の職人たちがその技のかぎりを尽くして掘った、平和の鐘、秩序の鐘であった。男はカーランド人の大魔法使いデリン。憤怒と憎悪と悔恨と悲しみをまとい、強い決意を胸に鐘を見上げていた。
「砕け散れ!」
 そして鐘は四百三十九の破片となって四方八方に飛び散っていった。
 王都はやがて混沌に投げだされる。

 鐘の破片をその身に受けた人々。征服された民族カーランディア人の少年タゼーレン、征服民であるアアランディア人の王子イリアンとロベラン。そして相争う三つの民族に平和は訪れるのか……。
 日本ファンタジーの粋を是非ご堪能下さい。

『夜の写本師』を超える、衝撃と感動。乾石智子の新たな世界。 日本ファンタジーの金字塔。『滅びの鐘』乾石智子[2015年12月]

(2016年1月7日)



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