第二次世界大戦末期、アメリカの工作員に困難極まる秘密指令がくだされた。ドイツ兵に扮して、敵兵だらけの捕虜収容所に潜入し、<SSG三〇〇>という略語の意味を探りだせ――。

『北壁の死闘』で知られるボブ・ラングレーのもう一つの代表作、『オータム・タイガー』を新装版でお届けします。面白さ無類の傑作スパイ小説です。

 タイトルの『オータム・タイガー』とは、「初老の虎」すなわち「人生の秋を迎えた猛者」を意味します。
 主人公のタリーは、そんなタイトルどおり、退職を数日後に控えたCIAの第三部門本部長。物語は、「頭にくるほど平凡な男」である彼が、亡命を希望している東ドイツの諜報機関の大物から身柄預け入れの要員に指名されたところから始まります。三十年以上、工作員の現場から離れていた自分がなぜ? その背景にあるのは、第二次世界大戦末期にタリーに下された極秘指令だった――。

 本書の訳者は、二〇一四年六月に惜しまれながら逝去された東江一紀先生。『ストリート・キッズ』(ドン・ウィンズロウ)などを手がけられた東江先生の名訳ぶりは、ときに〝東江節〟と称されるほどでした。今回、新装版でお届けするにあたって、東江先生と親交が深かった翻訳家の田口俊樹先生に解説をご執筆いただきました。本書の魅力はもちろんのこと、同じ翻訳者から見た〝東江節〟の凄さの一端、そして東江先生の思い出についても触れていただいている名解説。こちらも必読です!

(2015年12月7日)



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