今月の本の話題

2015.11.05

東欧のボルヘスが贈る、愛らしくも不気味な世界『12人の蒐集家/ティーショップ』ゾラン・ジヴコヴィッチ/山田順子訳[2015年11月]

 セルビアの幻想/SF作家、ゾラン・ジヴコヴィッチの短編集をお届けいたします。2010年に黒田藩プレスより刊行された、『ゾラン・ジフコヴィッチの不思議な物語』で大きく話題となった著者による連作「12人の蒐集家」と中編「ティーショップ」を収録した『12人の蒐集家/ティーショップ』です。

「12人の蒐集家」はタイトル通り、「コレクション」に翻弄される人びとの姿を描いた連作ですが、通常の想像されるような、切手や書物や陶器などの穏当なコレクションとはかけはなれた、ぶっとんだコレクターたちが登場します。たとえば第一話では、室内が紫色で統一された謎のケーキショップが登場しますが、そこで提供されるのは〈鉛色の避雷針〉、〈よろけヴァイオリン〉、〈うわのそらのマルハナバチ〉、〈惚れ睡蓮〉などの想像もつかないケーキたち。甘いものが食べたくなって、ふとその店に入った男の「何か特別なものを」というリクエストに応えてパティシエが薦めたケーキとは? いつになったらコレクションの話になるんだ、と思った方、このあととんでもない〈蒐集〉の話になっていくので、ご安心下さい。誰が何を集めているかは読んでからのお楽しみで。

「ティーショップ」も文字通り、喫茶室を舞台に展開する物語です。時間を潰すため、旅の途中に見知らぬ喫茶室に入った女性がメニューを開くと、カモミールティーなど普通のお茶に紛れて、雲のお茶、月のお茶など想像もつかないお茶が並んでおり……。中でも彼女がいちばん気になった〈物語のお茶〉を頼んでみると、店員が思わぬ行動を起こします。
 まさに「魔術的」という形容にふさわしい一作です。先述の『ゾラン・ジフコヴィッチの不思議な物語』にも収録されている作品で、既読の方には重なってしまい申し訳ありませんが、原書には並べて収録されており、またジヴコヴィッチを代表する傑作のため、改めてご紹介した次第です。デザイナー・柳川貴代氏による美しいコラージュと造本(表紙を捲ってすぐの色紙【見返し】に注目!)で、改めて楽しんでいただければ幸いです。

(2015年11月5日)



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