今月の本の話題

2015.11.05

担当編集者が F ・V ・シーラッハ『カールの降誕祭(クリスマス)』の舞台裏をセキララに語る。[2015年11月]


みなさまこんにちは。翻訳ミステリ班の編集者Sです。ついについに、フェルディナント・フォン・シーラッハの最新短篇集『カールの降誕祭(クリスマス)』が刊行いたします!

今回の『カールの降誕祭(クリスマス)』は本屋大賞「翻訳小説部門」第1位に輝いた『犯罪』と同じ、短篇集です。異様な罪を犯した人間たちの哀しさ、愛おしさを鮮やかに描いた『犯罪』に重なる、著者の見事な人間観察力と、“鉈で割ったような”と表される鋭い筆致を味わうことができます。また、本書もシーラッハさんが刑事事件弁護士として活躍するなかで出会った、さまざまな事件に材を得て描かれた作品です。

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じつは本書の原書(Carl Tohrbergs Weihnachten)は2012年に刊行されておりまして、作品発表順でいうと『コリーニ事件』(2011)と『禁忌』(2013)のあいだにあたります。つまりこのまったく違った2作品を繋ぐ、橋渡し的な短篇集でもあるのです。

収録作3篇のうち、「パン屋の主人」に出てくるパン職人は、『コリーニ事件』のある場面に登場しており、いわばスピンオフ的な作品です。そして表題作の「カールの降誕祭(クリスマス)」『禁忌』との関係が深く、主人公カールは『禁忌』の主人公ゼバスティアンのプロトタイプだと思われる要素を持っています。さらに、ふたつめの「ザイボルト」は、当初第2短篇集『罪悪』に収録するつもりで執筆されていたとか。

この短篇集を読むことで、著者シーラッハの文学世界をより深く知ることができます。収録作が少ないからといって翻訳されないのはもったいない! 日本の読者にもお届けしたい! そういう気持ちで編集作業をはじめました。

そして今回、『犯罪』『罪悪』でカバーイラストを手がけていただいたタダジュンさんに、本文の挿絵もお願いすることにしました。タダジュンさんは版画の技法を使って作品を制作されているイラストレーターさんです。シーラッハさんにもその魅力は伝わっており、来日記念のインタビュー(「ミステリーズ!vol.72」掲載)によると、自作の翻訳書をまとめた本棚で、唯一単行本版の『犯罪』だけ常に面出しにして飾っているそうです。たいへん気に入っていただいていると聞いて、タダジュンさんに依頼した日本語版担当編集者としてうれしかったです。

タダジュンさんは雑誌「Coyote」で、柴田元幸先生翻訳のアーネスト・ヘミングウェイの短篇の挿画を手がけられています。この雑誌のような、文章と絵のすばらしいコラボレーションが本の形でも実現できないかな~とずっと思っていました。タダジュンさんなら、シーラッハさんの作品の魅力を、さらに高めてくれるはず! そう感じて依頼してみました。

そして今回、カバーと本文あわせてなんと約20点のイラストを描きおろしていただきました! 

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最初の打ち合わせ段階から細かく相談を重ねていき、どのように絵とイラストを組み合わせるか、レイアウト的なところにも関わっていただきました。また、デザイナーの森田恭行さんにデザインをお願いして、三人で本文に使う紙、カバーに使う紙、タイトルのレイアウトなどを全部打ち合わせてつくりあげていきました。紙の見本をいくつもいくつも触って手触りや色を確かめたりするのは大変でしたが、とても楽しい時間でした。

そしていざ描いていただいたタダジュンさんの版画はほんとうにすごいものばかりで、シーラッハさんの物語世界を見事に表現してくださいました。いやもう、とてつもなくすさまじい迫力。このイラストとあわせて読むと、シーラッハさんの作品に一層すごみを感じると思います。とっても貴重なコラボレーションになりました!

最後に、本全体のつくりについて。カバーでは、今回ヴィンテージ感のある金色の紙を使っています。表題作がクリスマスのお話ですし、刊行時期もそれにあわせて11月上旬。よってプレゼントらしい雰囲気を出していただきました。デザイナーの森田恭行さんのご提案で、金色の紙に黒のインクでイラストを刷り、その上に銀のインクでタイトルなど文字を載せる、ということになりました。また、カバーの下の表紙や、帯にも同じ紙を使って統一感を出しています。たった3色しか使っていませんが、シンプルかつゴージャスなデザインは、シーラッハさんの作品そのものを表現していただいた気がしています。

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電子書籍もほぼ同時に発売の予定ですが、パソコンやスマートフォンの画面上では再現しきれない、圧倒的な「紙の本」としての魅力がある装幀ですので、ぜひ実際に手に取っていただけるとうれしいです。

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さらにタダジュンさんの個展で、なんとこの作品の原画が見られます! ギャラリー山陽堂さんで11 月28日から開催される展覧会「本と版画」で、『カールの降誕祭(クリスマス)』のカバーイラストや、3つの短篇の挿絵を中心に、ポール・オースター『ガラスの街』、バリー・ユアグロー『真夜中のギャングたち』など、これまでタダさんが手がけられた仕事の本と原画を展示されるそうです。ぜひぜひご覧になってください!

タダジュンさんの個展の情報は以下をご参照ください。

http://sanyodo-shoten.co.jp/gallery/schedule.html#564

『カールの降誕祭(クリスマス)』は 11月13日ごろ発売です。どうぞよろしくお願いいたします!


(2015年11月5日)




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