女の子の髪は濃い栗色で、やわらかな巻き毛がふわふわと頭に載っている。大きな瞳はブルーで、鼻にはささやかなそばかすが散っていた。その女の子は、座席で眠っていたのだろう。
 赤毛の若い母親が、ストックホルム中央駅の手前の途中駅での停車時間に、ホームに降りて携帯で電話していたところ、通りすがりの女性に助けを求められ、そのせいで列車は母親を置いて出発してしまった。だが、終点のストックホルム中央駅までは停車駅はなく、乗務員が女の子を見ていたので、なんの問題もないはずだった。母親は慌ててタクシーで列車のあとを追った。
 そして、ストックホルム中央駅で乗務員が確認したときには、女の子の姿は消えていた。濃いピンクのサンダルだけを床にのこして……。

 捜査にあたるのは、ストックホルム市警の敏腕警部アレックス・レヒトのチーム。部下のひとり、フレドリカ・ベリマンは、音楽家の夢破れて大学で犯罪学を学び、そこで得た知識を実地で生かそうと警察に入ってきた。そんな民間人出身で、人と関わることが苦手な彼女が、いまだ男社会である警察を象徴するような同僚たちとうまくいくはずがなく、ぎくしゃくした雰囲気が立ちこめていた。

 少女の母親の交友関係を調べはじめた捜査チームは母親の別居中夫に目をつけた。夫はとんでもない男で、彼女は暴力をふるわれていたらしい。よくある家庭内の問題なのか?
 だがひとりフレデリカは、その仮説に納得できないものを感じていた。そして事件は思わぬ方向に……

 世界27か国で刊行、大好評を博したシリーズ第一弾。


(2015年8月5日)




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