1944年、8月。ノルマンディーへの降下が、僕らの初陣だった――17歳で志願し、19歳で初めて戦場に降り立ったティモシー・コール五等特技兵こと「キッド」。背は高くて体格もまあまあ、しかし穏やかな性格で運動神経もない彼は、同年代ながら冷静で頭脳明晰なエド・グリーンバーグに誘われ、軍隊では「罰ゲーム」と蔑まれるコック兵となる。もっとも、空挺緒部隊所属の特技兵であるコックの仕事は、戦闘にも参加しつつ、その合間を縫って調理をこなすというハードなものだった。
 同じく後方支援を任務とする個性的な仲間たち――同じコック兵でプエルトリコ系の陽気なディエゴ、小柄で態度の大きいスパークと大柄で繊細なブライアンの衛生兵コンビ、調達の名人で容姿端麗な機関銃兵ライナス、おしゃべりな赤毛の補給兵オハラ、文学青年の通信兵ワインバーガーら――とともに、過酷な戦いの合間にみつけた「ささやかな謎」を解き明かそうと(気晴らしも兼ねて)知恵を出し合うが、謎を解くのは決まっていつもは物静かなエドだった。
 ノルマンディー降下後に解放したフランスの小さな村では、軍に回収されるはずの未使用のパラシュートを個人的に集めて回る兵士の目的を推理し、後方基地でのつかの間の休暇中には、一晩で消え失せた六百箱の粉末卵(すごくまずい)の謎に挑む。そして激戦をきわめたオランダの「マーケット・ガーデン」作戦のさなかに起きた、おもちゃ職人夫婦の怪死事件の解決と、残された子どもたちの面倒見に奮闘する。その後彼らは「バルジの戦い」を経て、ついにドイツへと到達する――

 本書では、タイトル通りの料理と戦争という要素だけでなく、戦場という特殊状況下での〈日常の謎〉が大きな核をなしています。じつは、担当者が最初に原稿を読んだ際に連想したのは、トマス・フラナガンの『アデスタを吹く冷たい風』でした。魅力的な探偵役のキャラクター、特殊な状況を上手く使った謎の設定の妙、それ以上に「解決」においてその特殊設定が活きてくる――この三点が共通項と言えるでしょうか。
 著者のデビュー短編集『オーブランの少女』が、時代や場所を異にしながら「少女」をテーマに描かれていたのと対照的に、ほとんど男祭りとなっていますが、戦争というテーマの重さをしっかり織り込みつつ、読み心地はさらに伸びやかですがすがしいものになっています。担当者も本年一押しの『戦場のコックたち』、発売を楽しみにお待ち下さい!

(2015年8月5日)



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