みなさまこんにちは。来月下旬刊行の『失われたものたちの本』(ジョン・コナリー著/田内志文訳)について、一足先にご紹介いたします。

 『失われたものたちの本』は翻訳者の田内志文さんが8年にわたって「訳したい!」と思い続けていたという作品で、主人公のデイヴィッドは本やおとぎ話を愛する12歳の少年です。母親が病気で死んでしまい、父親と継母のあいだに弟が生まれたことをきっかけに彼は孤独を覚え、しだいに本の囁きを聞いたり不思議な城などの幻覚を目撃するようになります。

 そしてある日、庭から異世界へと足を踏み入れてしまいます。そこで出会ったのは、『赤ずきん』に登場する〈木こり〉でした。彼の案内のもと、デイヴィッドは元の世界に帰るべく、この国の王が持つという『失われたものたちの本』を探す旅に出ます。旅を続けていくうちに、神話や童話、おとぎ話に登場するさまざまな人物や怪物たちに出会います。狼と子供をつくったふしだらな〈赤ずきん〉と彼女が産んだ人狼、魔女に殺されてしまう〈グレーテル〉、醜く太った白雪姫と、彼女に虐げられるこびとたち……。

 少年が異世界を旅するという王道のストーリーのなかに、苦しみや哀しみといった感情が具現化され、織り込まれています。おとぎ話のような「めでたしめでたし」とは無縁の美しくも残酷な世界で、どうしようもなく辛いことばかりが起きます。しかしデイヴィッドは目をそらさず、襲いかかるさまざな苦難を乗り越えて成長していきます。

 本書の翻訳原稿を受け取ってからは、夢中になって読みました。とにかくすごい迫力の物語なのです。映画の「パンズ・ラビリンス」のような、おそろしくも魅力的な異世界物語にたっぷり浸ることができます。また、現実世界へ帰る方法が書かれているかもしれない『失われたものたちの本』とは何なのか? その謎の真相には、驚きも待ち受けています。

 随所にさまざまな本やおとぎ話の影響が見られるところにも、本を愛する一人としてぐっときました。ぜひ、大人も子供も、本を愛するあらゆる人に読んでもらいたいと思います。

 『失われたものたちの本』は9月下旬刊行予定です。どうぞお楽しみにお待ちください!


(2015年8月5日)




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