海野十三という作家をご存じですか?
海野十三は1897年徳島県に生まれ、逓信省電気試験所で技師として働くかたわら執筆活動を開始しました。1928年『新青年』に「電気風呂の怪死事件」を発表し、探偵小説家としてデビューを飾ります。以降は、科学トリックを用いた多くの作品を発表、日本SFの先駆者と称されました。
そんな著者が生み出した名探偵が、シャーロック・ホームズをもじって名付けられた帆村荘六です。彼は、「麻雀殺人事件」で“目下売出しの青年探偵”として初登場し、数多くの長編・短編で、帝都を震撼させる様々な怪事件を解決しました。彼の活躍がこうして一冊の傑作選としてまとめられたのは、おそらく史上初です。
海野ミステリの最大の特徴は、科学知識を駆使した奇想天外なトリックが仕掛けられているところでしょう。奇怪な音響実験室での陰謀を企てた男が辿る末路を描き、最後にどんでん返しが炸裂する傑作「振動魔」、正体不明の怪人・“赤外線男”と対決する「赤外線男」などは、一度読んだら忘れられない強烈な読後感を残します。また、前代未聞の真相が明かされる「点眼器殺人事件」といった異色作も見逃せません。
さらに、今回の刊行にあたり、初出雑誌&初出単行本とも照合しています。それによりトリックの詳細や推理のロジックが明確になりました。帆村荘六の華麗な名推理を充分に堪能できる本書は、正に完全決定版です!
帝都を舞台に繰り広げられる、帆村荘六の名推理の数々をどうぞお楽しみください。
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科学知識を駆使した奇想天外なミステリを描いた、日本SFの先駆者と称される海野十三。鬼才が産み出した名探偵・帆村荘六が活躍する推理譚から、精選した傑作を贈る。麻雀倶楽部での競技の最中、はからずも帆村の目前で仕掛けられた毒殺トリックに挑む「麻雀殺人事件」。異様な研究に没頭する夫の殺害を企てた、妻とその愛人に降りかかる悲劇を綴る怪作「俘囚」。密書の断片に記された暗号と、金満家の財産を巡って発生した殺人事件の謎を解く「獏鸚」など、全10編を収録した決定版。解説=日下三蔵
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(2015年7月6日)
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