現代英国本格の豊かなる収穫
浜辺で踊る少女は幻か、それとも――
シェトランドを訪れた女性の変死に
ペレス警部は推理と共感で挑む



『水の葬送』に続く、ジミー・ペレス警部シリーズ最新作の登場です。英国推理作家協会(CWA)最優秀長編賞を受賞した『大鴉の啼く冬』を第1作とするシリーズは、本書『空の幻像』が第6作。今回は、シェトランド諸島のなかで最も北に位置するアンスト島が主要な舞台となります。

季節は初夏。アンスト島にある集会場ではパーティがひらかれていました。島出身の青年ロウリーが、イングランド本土から花嫁キャロラインを連れて戻り、里帰り結婚式をあげたのです。キャロラインの学生時代からの親友であるエレノアとポリーも、それぞれのパートナーを伴い祝福に訪れていました。

宴が終わって宿に引き揚げ、友人だけで飲んでいるとき、エレノアは「日中、白い服の女の子が浜辺で踊っているのを見た」と打ち明けます。じつはポリーも、そっくりな容姿の女の子をパーティ会場で目撃していましたが、口には出しませんでした。

そして翌日。最後まで寝ずに残ったエレノアは姿を消していました。彼女の行方不明は駐在の警官経由で、シェトランド本島にいるペレス警部に伝わります。ペレスは部下のサンディ・ウィルソン刑事を伴い、アンスト島に渡りますが、捜索を始めてまもなく、エレノアは死体で発見されるのでした。

テレビ番組制作者であるエレノアは、じつはこの島に伝わる少女の幽霊“小さなリジー”を題材にしたドキュメンタリー番組を企画しており、今回アンスト島を訪れたのも取材を兼ねてのことのようでした。彼女が最後に漏らした少女の話は、リジーのことを想起させますが、はたして死との関連はあるのでしょうか。ペレス警部はサンディ刑事や、本土から派遣されたウィロー・リーヴズ警部と、捜査を開始します……。

捜査が進展していくにつれ、事件を取り巻く不可解な状況が明らかになってくるさまを、今回もクリーヴスはぐいぐい読ませます。謎の全容が見えたのちには、いかなる真相が隠されているのか……。現代英国本格ミステリの豊かなる収穫、どうぞご堪能ください。

アン・クリーヴス『空の幻像』は5月31日刊行予定です。


「浜辺で踊る白い服の女の子を見た」そう話した翌日、女性はシェトランドのアンスト島で失踪し、ペレス警部たちが捜索を開始してまもなく死体で発見された。彼女はテレビ番組制作者で、親友の結婚式のため夫や友人と島を訪れていた最中の悲劇だった。彼女の見た“少女”と事件との関わりは……CWA最優秀長編賞の栄誉に輝いた現代英国本格ミステリの名シリーズ、新たなる傑作長編。




現代英国本格のさらなる高みへ――
シェトランドにもたらされる新たな謎と物語
ジミー・ペレス警部シリーズ最新作登場



英国推理作家協会(CWA)最優秀長編賞を受賞した傑作『大鴉の啼く冬』を第一作とし、以下『白夜に惑う夏』『野兎を悼む春』『青雷の光る秋』の四作から構成される〈シェトランド四重奏〉。現代における本格ミステリとして、一作ごとに高いクオリティを維持したまま、四部作としての完結を見ましたが、主人公ジミー・ペレス警部の物語は終わっていませんでした。
英国最北端の島々シェトランドを舞台とする、ジミー・ペレス警部シリーズの第5作として2013年に発表されたのが、本書『水の葬送』です。

本書で語られるのは『青雷の光る秋』からおよそ半年後、シェトランドにふたたびの春が訪れた頃のできごとです。地方検察官ローナが、外海へ出ようとしている鎧張りの船(ヨール:伝統的な工法で作られた競漕用の小船)を岸に戻そうとして、船中に若い男性の死体を発見する……という印象的な発端から事件は始まります。そして死因が他殺であること、被害者が地元出身のやり手新聞記者であることが判明し、彼が帰省して島のエネルギー産業問題を取材していたらしきことが知れるにつれ、物語はこれまでの〈四重奏〉とは異なる彩りを帯びはじめるのでした。

『青雷』までお読みいただいたかたなら、主人公ペレス警部の去就には大いに関心があることでしょう。本書でのペレス警部は以前と変わってしまった点、変わらぬ点をともに持ち合わせながら、新たな事件に取り組むこととなります。

そう、本書は〈ジミー・ペレス警部の物語〉としては地続きながら、〈シェトランド四重奏〉とは異なる新たなかたちで綴られる作品なのです。もちろん、ミステリとしてのできばえは保証しますのでご安心ください。

アン・クリーヴス『水の葬送』は7月21日刊行予定です。


シェトランド島の地方検察官ローナは、小船にのせられ外海へ出ようとしていた死体の発見者となる。被害者は地元出身の若い新聞記者だった。本土から派遣された女性警部がサンディ刑事たちと進める捜査に、病気休暇中のペレス警部も参加し、島特有の人間関係とエネルギー産業問題が絡む難事件に挑む。〈シェトランド四重奏〉を経て著者が到達した、現代英国ミステリの新たな高み。


(2015年7月6日/2018年5月25日)




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