今月の本の話題

2015.05.08

小さな美術館が舞台、ほんわかした読み心地の連作ミステリ『ご近所美術館』[2015年5月]


 国道沿いのビル群の間に建っている、小さなビル――その二階にある美術館が、本書の舞台です。正式名称は「西園寺英子記念四コマまんが美術館」。西園寺英子とは、長谷川町子の『サザエさん』が全国紙を飾って人気を博していた時代に同じく活躍していた四コマまんが家です。地方紙に『すてきなエプロン・ママ』という四コマまんがを連載していましたが、今や忘れさられてしまった、幻の作家となっています。
 西園寺英子の仕事を後世に残すため、息子の護さんが、かつて仕事場のあった都内の土地を買って建てたのが、この「四コマまんが美術館」です。

 当の美術館ですが、窓際には椅子やテーブルのあるラウンジが設えられ、のんびりと寛げる空間となっています。老館長が淹れるコーヒーを目当てに訪れるひとも少なくありません。西園寺英子の業績の顕彰に貢献しているかはともかく、常連のお客には憩いの場として親しまれています。


* * *


 ご近所の方々の憩いの場となっている「四コマまんが美術館」ですが、ある日、館長の西園寺護さんが病気療養のため引退することに……。紆余曲折を経て、川原董子さんが新館長に就任します。楚々とした美人の彼女に、常連の一人で、近くの会社で働く青年・海老野くんは一目惚れしてしまいます。
 どうにかして董子さんを振り向かせたい海老野くん。彼女の妹である川原あかねさんに助言を得ながら、来館者が持ちこむ一風変わった謎を解決しようと奮闘します。果たして、彼の恋の行方はどうなってしまうのでしょうか?

『ご近所美術館』は、小さな美術館を舞台に置いて、「日常の謎」から果ては殺人事件まで、様々な趣向が凝らされた短編が揃っています。
 もちろん、ミステリとしての面白さだけが本書の魅力ではありません。恋する青年・海老野くんを始めとして、稀に見る美貌を持ちながら暗い過去を匂わせる館長の川原董子さん、彼女の妹で自分も同人でまんがを描いているあかねさん。三人が交わす謎解きを中心に、美術館を訪れるひとびとの遣り取りも、魅力のひとつです。
 そして何より、海老野くんの恋の行方を追う、ラブコメとしての楽しさも見逃せません。
 『ご近所美術館』に、あなたも一度、訪ねてみてはいかがでしょう。

(2015年5月8日)




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