●最新刊『影なき者の歌』

 カイルの家はパン屋兼酒場。母は町一のパン職人だ。
 今日は立ち入り検査の日。
 ゾンベイ市では毎年パン屋の立ち入り検査がおこなわれ、パンの重量が足りなかったり、おいしく焼き上がっていなかったりして合格できないと、そのパン屋は法を犯した罪で、桟橋のそばの鉄の檻に閉じ込められ、三日間、檻ごと何回か川に沈められたり、川の上に宙づりにされたりして、さらし者にされるのだ。
 カイルの母さんはまだ一度も不合格になったことがない。だが、今日にかぎって何もかもがうまくいかなかった。カイルの弟のブリキの笛が、パンを焼くかまどの火のなかに落ち、パンがブリキ臭くなってしまった。もちろん母さんはパンを焼き直した。それから酒場のほうにゴブリンの一座があらわれ、酒場で劇を上演させて欲しいと言った。父さんに邪険に追い払われた彼らに、お詫びのしるしにパンをあげたカイルは、お礼にゴブリンから小さな骨でできた小さな笛をもらった。だが、その笛をカイルがひと吹きすると、なんと影がなくなってしまったではないか。
 ゾンベイでは影がないのは死者だけ。カイルは家族からも死んだことにされてしまう。
「わたしは生きているのに」
 そして、影を取り戻すためのカイルの奮闘がはじまる。
 一方ゾンベイの街には、刻一刻と洪水が迫っていた。洪水から石造りの橋を守るためには、楽士たちが演奏しなくてはならない。カイルの死んだ祖父も橋の楽士だったというのだ。

 ミソピーイク賞最終候補作。ル・グウィン、ピーター・S・ビーグル絶賛、全米図書賞受賞の『仮面の街』姉妹編登場!




『仮面の街』

 孤児の少年ロウニーは、きょうだいたちと一緒にゾンベイ市の南側にあるグラバの家で暮らしていた。きょうだいといっても血はつながっていない。みんなグラバに拾われた子どもたちだ。ロウニーのたったひとりの本当の兄ロウワンは、以前はいっしょに暮らしていたが、出ていってしまい、今は行方がしれない。
 グラバは魔女だ。鳥の脚の形をしたぜんまい仕掛けの脚をもち、街じゅうを動き回る不思議な家に住んでいる。昔は船の魔女で、盗賊にさびた剣で脚を切りおとされたという噂がある。
 ある日グラバの遣いで街に出かけたロウニーは、ゾンベイ市では禁止されているはずの芝居を上演するゴブリンの一座に出会った。炎のジャグリングに、仮面劇……。夢中で見ていたロウニーは、ゴブリンの誘いに乗って仮面劇に出てしまう。そして舞台裏でロウニーが耳にしたのは、行方不明になっているたったひとりの血を分けた兄ロウワンの噂だった。
 グラバの家を抜け出し、ゴブリン一座に逃げ込んだロウニーは、兄を探し出すことができるのか?
 機械仕掛けの身体を持つ奇妙な人々、ゴブリン一座の不思議な仮面劇、川の氾濫におびえるゾンベイ市の人々……。
 全米図書館賞受賞。ル=グウィン、ピーター・S・ビーグルも称賛した、注目のファンタジー。

読み始めたら止まらない! お願い、終わらないで。もっと続きを書いて!(アーシュラ・K・ル=グウィン)、素晴らしい作品。トールキンや彼の後継者、模倣者とはまったく別の独創性をもった作家だ。(ピーター・S・ビーグル)

第2弾 GOULISH SONG(仮題『影なき者の歌』)2015年夏刊行予定
ゴブリンから笛をもらったせいで影をなくしてしまったカイル。カイルは笛の謎を解き、影を取り戻すことができるのか? 『仮面の街』と同じ四日間におきたもうひとつの物語。ミソピーイク賞最終候補作。


(2015年4月6日/2015年7月6日)




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