今月の本の話題

2015.04.06

奥泉光のミステリの魅力を凝縮した傑作集『ノヴァーリスの引用/滝』 [2015年4月]


 現代日本文学を代表する作家・奥泉光さんの作品が、遂に創元推理文庫で刊行されます。
「ノヴァーリスの引用」「滝」、高密度のミステリ世界を構築する著者の代表作二編を一冊にまとめてお贈りします。

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「ノヴァーリスの引用」
 恩師の葬儀からの帰り道、数年ぶりに再会した男たち。学生時代に同じ研究会に所属していた彼らは、再会を祝して居酒屋で酒を酌み交わす。何時しか話題は、今は亡き友人に。深夜、大学図書館の屋上から墜落死した彼は自殺したのか、それとも……。
 居酒屋で、夜桜の下で、大学の研究室で――互いが謎解きをしていくうちに、記憶と想像はまじりあい、真実は万華鏡のようにめまぐるしく変わっていく。終わりなき推理の連鎖が読者を迷宮へと誘う、著者の初期代表作。第15回野間文芸新人賞ならびに瞠目反・文学賞受賞。

「滝」
 七つの社を巡り、籤をひいて吉凶を占う山岳清浄行に臨んだ五人の少年。才覚と人柄により周囲からも一目置かれる少年・片桐勲がリーダーとなって山岳行に臨む第一班は、立て続けに出る凶と滝行により、肉体的にも精神的にも追い詰められていく。
 少年たちの間では凶を引き続ける勲に対して疑心が募る一方、二人の青年が社に先回りして、凶が出るように籤を操作していた。しかし、勲のある行動をきっかけに、罠を仕掛ける側であった筈の彼らも疑惑と焦燥にかられていく。山岳行の背後に張り巡らされた悪意と罠、極限状態におかれた少年たちの心理を緻密に描き、傑作と名高い一編。

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 1986年「地の鳥 天の魚群」が文芸誌『すばる』に掲載されてデビューした奥泉光さんは、芥川賞を受賞した『石の来歴』や、野間文芸賞受賞作『神器 軍艦「橿原」殺人事件』、谷崎潤一郎賞受賞作『東京自叙伝』など、その著作が多くの文学賞を受賞、候補に選ばれてきました。
 純文学の世界で高い評価を得る一方、芥川賞を受賞後には長編『「吾輩は猫である」殺人事件』を発表。本作は、夏目漱石の名作『吾輩は猫である』の「その後」をSFやメタ・フィクションの要素を交えて描く、破天荒なミステリでした。以後も、大作『グランド・ミステリー』が日本推理作家協会賞の候補に選ばれ「このミステリーがすごい!」「本格ミステリ・ベスト10」にもランクイン。『シューマンの指』も本屋大賞ならびに各種年末ランキングにランクインと、ミステリの世界でも評価を獲得しました。
 奥泉光という作家は、現在に至るまで、純文学やエンターテイメントといった区分にとらわれず意欲的な作品を発表しています。最初の本格的な長編『葦と百合』は、三島由紀夫賞の候補に選ばれて文学作品としても認めらながら、文庫版ではミステリ作家の法月綸太郎さんが解説を寄せるなど、ミステリとしても高く評価されました。

 本書は、奥泉さんの文学作品としての魅力、そして何よりミステリとしての魅力が十分に堪能できる一冊になっております。「文学」という単語に小難しさを覚えたり、長編に手を出しにくさを感じた方は、奥泉光さんのミステリの魅力を凝縮した傑作集である本書をぜひ読んでみてください。

(2015年4月6日)




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