かつて江戸川乱歩は、チェスタートンやロアルド・ダールらの諸作を引き合いに出し、ミステリやSF、ホラーなどのジャンルに収まりきらない作風を〈奇妙な味〉と表現しましたが、本書に収録された18篇は、まさに〈奇妙な味〉としか形容しようのないものです。本書では「超自然の要素はないにもかかわらず、なんとも不思議な読後感を残す作品、超自然の要素はあるものの、ベースはあくまでも日常的な現実であり、SFやファンタシーとはひと味ちがう作品」を選び、過去に雑誌やアンソロジーに載ったきりの、あるいは日本初紹介となる名作をお届けいたします。編者は、『時の娘 ロマンティック時間SF傑作選』『黒い破壊者 宇宙生命SF傑作選』〈20世紀SF〉〈奇想コレクション〉などの編纂でおなじみの中村融氏。作品収録順にも工夫が凝らされているので、ぜひ冒頭の「肥満翼賛クラブ」からどうぞ。
 個人的なお勧めは、戦時中に弟の戦友と結婚した女性をめぐって、悪夢と恍惚が交錯する不気味な愛の物語「姉の夫」と、地獄の庭園を受け継いだ低俗雑誌出版人を襲う、想像を絶する災難を描いた「アダムズ氏の邪悪の園」。どの作品も独特の魅力に溢れているので、皆様もお気に入りの一編を見つけて下さい。

 以下に収録作品一覧を掲載しますので、どんな物語か想像をふくらませて楽しみにお待ち下さい。本書は2015年5月末に発売予定です。

収録作品一覧
肥満翼賛クラブ    ジョン・アンソニー・ウェスト 
ディケンズを愛した男 イヴリン・ウォー 
お告げ        シャーリイ・ジャクスン 
アルフレッドの方舟  ジャック・ヴァンス *
おもちゃ       ハーヴェイ・ジェイコブス 
赤い心臓と青い薔薇  ミルドレッド・クリンガーマン *
姉の夫        ロナルド・ダンカン *
遭遇         ケイト・ウィルヘルム *
ナックルズ      カート・クラーク 
試金石        テリー・カー 
お隣の男の子     チャド・オリヴァー *
古屋敷        フレドリック・ブラウン 
M街七番地の出来事  ジョン・スタインベック 
ボルジアの手     ロジャー・ゼラズニイ *
アダムズ氏の邪悪の園 フリッツ・ライバー *
大瀑布        ハリー・ハリスン 
旅の途中で      ブリット・シュヴァイツァー 
街角の書店      ネルスン・ボンド 

*=本邦初訳作


(2015年4月6日)




【2009年3月以前の「本の話題」はこちらからご覧ください】

海外ミステリの専門出版社|東京創元社