今月の本の話題

2015.03.05

4月刊の海外文学セレクションの一冊『エディに別れを告げて』の著者は、 エドゥアール・ルイという22歳の青年です[2015年3月]

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Photo John Foley-Agence Opale
フランスで今、話題の青年作家エドゥアール・ルイ(Edouard Louis)をご紹介致します。
昨年1月に、この作品を発表して一躍フランスじゅうの注目を集めたエドゥアール・ルイ。
刊行当時21歳だった彼は、高等師範(エコール・ノルマル・シュペリユール)在籍中のインテリ学生です。
そのエリート・インテリ青年が、自分の幼少期を赤裸々につづったのが本作なのです。
同性愛者である彼は、北フランスの工場地帯の極貧の家庭の生まれ。
エディ・ベルグルという名でした。「ベルグル」とは、ベル=美しい、グル=面(つら)つまり、いけてる顔、美しい面、とでもいう奇っ怪な苗字なのです。「エディ」は、エドゥアールの愛称というわけではなく、テレビ漬けの日々を送る父親が、見ていたアメリカのTVドラマの登場人物の名前を頂戴したというもの。


子供の頃に、楽しい思い出はまったくない。この時代に、幸福や喜びの感情を経験したことがないというつもりはない。ただ、痛みがすべてを支配しているから、そこに収まらないものは消されてしまうのだ。


これは作品冒頭の文章。
貧しい工場地帯、男たちの支配する世界、強いことだけが価値のある世界で、男であれば誰もが熱中するサッカーなど好きではない、なよなよした、女の子のような著者は、異分子だった。家族にとって、村人たちにとって……。
壮絶ないじめ、同性愛体験、同性愛を隠すための女の子との体験……差別主義の標的となり、苦しい日々を送った少年は、逃亡を決意する。
奇怪な名前を捨て、家族を捨て、村を捨てて。
そして今は、パリで、知的エリートの同性愛者として生きている。
フランス大学出版局(PUF)で叢書の編集責任者に、抜擢されるまでになって……。

これが現代なのかというほどの貧困の実態と、想像を超える差別主義(それは性差別であり、人種差別であり、同性愛差別であり)。
そういったすべてを否定して今があるエドゥアール・ルイが、赤裸々に語るその実態は、決してフランスだけの状況ではないのでしょう。
世界は自由になった。そして自由が行き着いた果ては、再びめぐりめぐって戻ってきた狭量な、差別主義の横行する世界でしかないのでしょうか?

現代を生きる皆様に是非お読みいただきたい真実の物語です。


(2015年3月5日)




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