『ホテル1222』
 雪嵐の中、オスロ発ベルゲン行きの列車が脱線、トンネルの壁に激突した。
 死亡したのは運転手ひとり、負傷者を含む268名の乗客たちは近くの古いホテル〈フィンセ1222〉に避難した。幸運にも列車には医者が乗り合わせており、ホテルには食料などの備蓄もたっぷりあった。乗客は救助を待つだけでいいはずだった。
 だがそんな中で、牧師が他殺死体で発見された。
 吹雪は止む気配を見せず、救助が来る見込みはない。人々は次第に苛立ち、そして怯え始める。
 おまけにホテルの最上階には、正体不明の人物が宿泊しているとの噂が……。どうやら脱線した列車の最後尾に特別車両が連結されていたらしいのだ。乗っていたのはノルウェーの王族? それとも移送中の犯罪者? 凶悪なテロリスト? 人々の憶測はとどまるところをしらない。
 乗客のひとり、元警官の車椅子の女性が乞われて牧師殺人の調査にあたるが、事件は一向に解決せず、またも死体が……。

 ノルウェーミステリの女王がクリスティに捧げた、著者の最高傑作!




●『凍える街』
 クリスマスを目前に控えた12月19日の真夜中近く。家族と過ごしていたオスロ警察犯罪捜査課の腕利き女性警部ハンネ・ウィルヘルムセンは、相棒の捜査官ビリー・Tから呼び出しを受ける。 ハンネの家の近くにあるマンションで四人の人間が殺されているというのだ。
 被害者はマンションに住んでいた海運会社の社長ヘルマン・スタールバルクとその妻と長男、そして身元不明の男。
 捜査が進むうちに、スタールバルク家では、会社の後継者の座と遺産をめぐり家族間で確執があったことがわかってくる。
 やはり愛憎が複雑にからみあう家族の相続がらみの事件なのか?
だが、ハンネは当初身元がわからなかった第四の被害者、出版コンサルタントの男の存在がどうしても気になって仕方がなかった。彼はなぜ、現場にいたのか? なぜ殺されたのか?

 本シリーズは、事件そのものの面白さもさることながら、オスロ警察どころかノルウェー全土にその名を轟かせる名犯罪捜査官ハンネという人物そのものがキイポイントになっている。
 今でこそ同性の恋人と、もと売春婦という異色の経歴をもつ家政婦と三人で、暖かい家庭を築いているが、両親や兄とは断絶し、恋人だった女性を喪うという苦悩に満ちた過去を背負っているハンネ。秘密主義でなかなか自分の考えを明かそうとせず、警察組織のなかで浮いてしまう彼女は、苦悩しながらもひとり自らの推理に基づき捜査を進める。

 そして、すべてが明らかになるとき、悲劇が……

 著者のアンネ・ホルトは一九五八年生まれ。ベルゲン大学法学部在学中の一九八四年から八八年までノルウェーの国営テレビ放送局に勤務。その後の二年間、オスロ市警に検察官として勤務。九〇年にテレビの仕事に戻り、九一年までニュース番組のキャスターを務めた。その後弁護士の仕事をしていたが、一九九三年に本シリーズの一作目にあたる『女神の沈黙』で作家デビュー。さらに九十六年には法務大臣の職に就く。翌年大臣の職を退いたが、執筆活動は現在も続けている。
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 そんな著者の次作は、惜しくも受賞は逃したが2012年MWA長編賞にもノミネートされた『1222』(この年にはこちらも受賞を逃したが東野圭吾『容疑者Xの献身』もノミネートされている)。古典的な密室トリックを現代風に描いた傑作で、アガサ・クリスティへのオマージュにもなっているらしい。この作品も2015年に創元推理文庫で刊行予定、どうかお楽しみに。


(2014年12月5日/2015年9月7日)




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