今月の本の話題

2014.10.07

アポロ11号が持ち帰った“月の石”が盗まれた!? 実際にあった事件の真相に迫る傑作ノンフィクションノベルが登場。ベン・メズリック『月を盗んだ男――NASA史上最大の盗難事件』[2014年10月]

 2002年、あのNASAを震撼させる大事件が起こりました。なんと、NASAの、いやアメリカの国家的財宝とも言える“アポロ計画で地球に持ち帰られた月の石”が盗まれたのです! 史上初の有人月面着陸を成功させたアポロ11号によって採取された石を含む貴重な財産が、何者かによって奪われました。日本に置き換えると、いわゆる三種の神器のひとつが盗まれた! くらいの衝撃がはしったことでしょう。そしてなんと、FBIによって逮捕された犯人は、25歳のNASAで働く研修生だったのです!

 犯人のサド・ロバーツは“火星に立つ最初の人間になる”という壮大な野望を抱いて、宇宙飛行士となるべくNASAのジョンソン宇宙センターの研修生になりました。ユタ大学の学生で、物理学、地質学、人類学を専攻し、飛行機操縦とスキューバ・ダイビングの免許をもち、ロシア語と日本語を習得した彼は、いわゆる天才と言える人間でした。非常に優秀かつ人望もあったサドが大それた犯罪を行ってしまった理由は、知り合って間もない恋人に月の石を贈るためだった……!? 衝撃の事実が明らかになります。どうやってNASAの厳重な警備を突破したのか? 捜査にあたったFBIはどのように彼を追いつめたのか? 数々の謎の真相に迫ります。

 “月の石盗難事件”は、「NASA盗難事件:狙われた月の石」など、TV番組にもなっています(http://www.ngcjapan.com/tv/lineup/prgmtop/index/prgm_cd/1050)。本書は関係者や情報提供者への膨大なインタビューをもとに事件を再構成したノンフィクションノベルです。事実にもとづいていますが、小説仕立てにしているためたいへん読みやすく、サドの心理の変化なども手に取るようにわかります。

 著者のベン・メズリックはアメリカの作家。初のノンフィクション『ラス・ヴェガスをブッつぶせ!』で注目され、ベストセラー作家となりました。その後は数々のノンフィクションを上梓し、巨大なソーシャルネットワーク〈フェイスブック〉の創業者マーク・ザッカーバーグの素顔を描いた2009年発表の『facebook』は、映画「ソーシャル・ネットワーク」の原案になりました。この『月を盗んだ男』も、すでに映画化が決定しています。事件の展開を軽快かつスリリングに描いていく手腕はさすがのひと言で、FBIの捜査活動や、NASAの宇宙センター内の様子もいきいきと描写されています。NASAってどんなところなんだろう? という好奇心も満たしてくれる作品です。

 ちなみにサド・ロバーツ氏は“月の石盗難事件”の罪を償って刑務所から出たあとは物理学などさまざまな分野で活躍し、世界が注目する大プレゼンテーションの場TED Conference(テド・カンファレンス)でも講演を行っています。プレゼンテーションの様子はこちら(https://www.youtube.com/watch?v=aSz5BjExs9o)で見ることができます(英語ですが)。

 「なんでこの人が犯罪者に!?」と、少しでも興味を持たれた方はぜひ本書を手に取ってみてください!

(2014年10月7日)




【2009年3月以前の「本の話題」はこちらからご覧ください】

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