今月の本の話題

2014.09.05

時代小説の大家が贈る、本格ミステリ連作集&奇怪な事件を描く短編集 柴田錬三郎『幽霊紳士/異常物語』

本書は〈眠狂四郎シリーズ〉などで知られる時代小説の大家・柴田錬三郎による、傑作ミステリの合本版です。あのシバレンがミステリ?と意外に思われる方がいるかもしれませんが、実はとびきり面白いミステリを書いていたのです。

難事件を無事に解決したと考える刑事や、完全犯罪をやり遂げたとほくそ笑む犯人。彼らがほっとした瞬間、「仕損じたね」と告げながら、全身をグレイ一色につつんだ謎の男・幽霊紳士は現われる――。神出鬼没の名探偵が謎を解く、全12話で構成される『幽霊紳士』

起きる12の事件のバリエーションは豊富で、殺人事件以外にも、操り、倒叙、日常の謎と読んでいて飽きません。しかも、全話のラストで、主要人物たちの「こうである」という思いこみをひっくり返すという、鮮やかなどんでん返しが炸裂します。幽霊紳士が語る思いがけない真相は、超常的な力ではなくロジカルな推理に基づいて展開されるので、本格ミステリの醍醐味が味わえます。 また、前話の主要人物が次話では脇役となって登場し、ストーリーの導入役を果たすという仕掛けがあるので、リーダビリティが抜群です。

一方の『異常物語』は、約40年ぶりの復刊(!)かつ初文庫化となる、長年入手不可能だった幻の短編集。世界各都市を舞台にした、奇怪な出来事を描く8編を収録しています。

パリに留学中の学生が遭遇した、謎の人物の正体が明かされる「生きていた独裁者」や、創作に悩むヒッチコックが体験したアパートでの冒険譚「午前零時の殺人」など、奇妙で刺激的な物語が綴られますが、中でも見逃せないのは、若き日の名探偵の活躍を描くホームズ・パスティーシュ「名探偵誕生」でしょう。
ワトスンと出会う前(『緋色の研究』以前)の事件を描いた、コナン・ドイルの習作という設定で描かれていますが、生き生きとしたホームズの活躍を楽しめるのは間違いありません。

稀代のストーリーテラーによる、本格ミステリ連作集と奇想に満ちた短編集を、どうぞお楽しみください!

(2014年9月5日)




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