今月の本の話題

2014.09.05

読みだしたら止まらない! ノンストップ警察小説 アレックス・グレシアン『刑事たちの四十八時間』[2014年9月]


 英国中西部の炭鉱の村。そこで勃発した夫婦と幼児の失踪事件の捜査に派遣された、ロンドン警視庁のディ警部補とハマースミス巡査。しかし警視総監が彼らに与えた時間はわずか二日間だった――。


 シリーズ前作の『刑事たちの三日間』の舞台は1989年のロンドン。
 切り裂きジャックを摘発できず、その信頼を地に堕としたロンドン警視庁。そこで警視総監は殺人捜査課の創設を決断。しかし、ロンドンでは年間数千件の殺人事件が起きているのに、配属された刑事は十二人だけ。
 その殺人捜査課に抜擢され、無体な任務に挑むウォルター・ディ警部補。我が身を省みない猪突猛進型の巡査ハマースミス。必要だと思ったという理由で勝手に法医学検査官の職を作ってしまったキングスリー博士。『刑事たちの三日間』はそんな三人の苦闘の三日間を描く物語でした。


 続編となる本書の舞台の村は、地下を無計画に採掘したため、家は沈むは木は傾くは、そこらじゅうが地盤沈下中。カバーイラストで教会が傾いているのは、そんな状況を表現したものです。加えて、「生首さらす 血まみれがいこつ わるい子どもを 家からさらい……」と、日本の探偵小説に出てくるようなわらべ歌が伝わっているような、迷信と因習が色濃く残ったところです。
 慣れたロンドンではなく縁もゆかりもない村での、しかも二日間と期限が区切られた捜査。ただでさえ条件は悪いのに、到着早々「フクロウが近くに止まったからあなたそのうち死ぬわ」と地元の娘に言われ、不気味な目玉が発見されて、謎の奇病が蔓延し、春の猛吹雪に見舞われ、あやしいアメリカ人が徘徊し……と、刑事たちにとっては近年まれにみる悪条件の警察小説となっています。
 本書の特徴としてもうひとつ挙げられるのは、主人公格の三人が底抜けに「良い人」であること。事件の闇が濃いだけに「良い人」ぶりは際立ち、編集中、もう少し悪に染まってもいいんじゃない?と言いたくなったほどでした。
『刑事たちの三日間』に登場したディの妻やダンスマンことヘンリー、キングスリーの娘フィオナなどの登場人物は今回も顔を出します。とはいえ前作から引き継いだストーリーはあまりありませんので、本書からでも十分楽しめる作品です。前作をお読みでない方も、本書からエンターテインメント度溢れる物語をお楽しみいただければと思います。

(2014年9月5日)




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