今月の本の話題

2015.02.05

闇の女王の真髄がここに。呪われし者と異形の者が跋扈する都パラディスを舞台にした四部作完結。タニス・リー『パラディスの秘録 幻獣の書』[2015年2月]


 ダークファンタジーの女王タニス・リーの代表作といえば、『闇の公子』始まる〈平たい地球シリーズ〉ですが、それと並ぶ傑作がこの〈パラディスの秘録〉四部作です。
〈平たい地球シリーズ〉が遙か神話伝説の世界(または異世界とも)を舞台であるのに対し、この〈パラディスの秘録〉はヨーロッパにある架空の都市が舞台。時代はローマの支配時代から未来にわたり、形式も短編集、中編集、長編と様々。主人公も各話で違いますが、唯、退廃と幻惑にみちたパラディスという街が舞台であることは共通しています。もしかすると真の主人公はパラディス自身なのかもしれません。
それでは、狂える者たちの、生者の、半生者の、蘇生者の、死なざる者の、そして呪われた者の都パラディスをお楽しみ下さい。


パラディスの秘録 幻獣の書
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『パラディスの秘録 幻獣の書』

 パラディスの大学で学ぶために地方からやってきた、裕福な家の息子ラウーラン。彼が下宿したのは、かつて栄えてはいたものの、今は見るかげもないほど落ちぶれた貴族デュスカレ家の屋敷だった。家人の姿はとうになく、老婆と馬丁しかいないと思われた屋敷で、ラウーランは若い娘の幽霊を見る。
 麗しき幽霊の名はエリーズ・デュスカレ。若くしてこの家に嫁ぎ、そして……葬られた。エリーズとの出会いがラウーランを世にも奇怪な体験へと誘う。
 幽霊が語る、自身の身の上、そして呪われたデュスカレ家の物語。

 さらに物語は遙かローマ時代に遡る。ローマの軍人ウスカが娼婦から受け取った緑の石、悲劇の萌芽。そして怪異に挑むユダヤの魔術師。

 異形のものが跋扈する呪われた都パラディス。闇の女王リーが織りなす、世にも奇怪で蠱惑的な幻想譚。



パラディスの秘録 堕ちたる者の書
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『パラディスの秘録 堕ちたる者の書』

 退廃と背徳の都パラディス。この地において男と女、聖なるものと邪なるものに、境界はないのだ……。

 人は悪魔に追われたとき、どれほど速く走るものなのか? とある黄昏どき、詩人アンドレ・サン-ジャンは、何者かに追われて狂ったように走る男からスカラベを刻んだ紅玉の指輪を渡される。両性具有の吸血譚「紅に染められ」。

 ただひとり信じていた愛しい弟に見捨てられた娘ジュアニーヌは、悪魔に魂を売った。昼間はジャーヌとして修道院で下働きをし、夜はジュアンと名乗り少年の姿になって盗賊を率い、放埒と悪行のかぎりを尽くす。悪魔崇拝と魂の再生描いた「黄の殺意」。

 美貌の役者の謎の死。彼が魅入られたこの世ならぬ存在、魔女ティモニーの遍歴「青の帝国」。

 幻想のヨーロッパの都パラディスを舞台にした中編3編を収録。



パラディスの秘録 死せる者の書
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『パラディスの秘録 狂える者の書』

 パラディスは狂える者の都。あるいは、パラディスそのものが狂っているのかも……。
汚染された灰色の霧に包まれたシティ、パラダイスに住み、殺しを生業にする双子の兄妹フェリオンとスマラ。ふたりを相続人に指名して死んだひねくれ者の伯父は、シティの高みにある邸宅を遺していた。そこにあるのは、ふたつの世界をつなぐ迷路。フェリオンとスマラは迷路に足を踏み入れる。
 パラディに住む美しく才能溢れる画家レオカディアは、恋人を殺した疑いをかけられ病院に囚われる。その病院の近くには、幽霊がでるというかつての脳病院の廃墟があった。廃墟を訪れたレオカディアは、そこで〈ペンギン・ジン〉というラベルの古い硝子の瓶を見つけた。

 役者に恋焦がれその身を投げ出したあげく捨てられ正気を失った、パラディスの富豪の若い娘イルドは、両親によって脳病院に入れられ世間的には死んだものとされた。厳しい看守たちの監視の下、そこではかつての娼婦である美しき女王が、遙かな氷の国ペンギニアを夢見ていた。

 異なる時、異なる世界のパラディス。だが狂気に絡めとられた彼らの運命は歪み捻れ、交わっていく。
 闇の女王タニス・リーの描く、狂気の都パラディスの物語。



パラディスの秘録 死せる者の書
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『パラディスの秘録 死せる者の書』

 パラディスにも墓所はあります。小さな墓地は人目に触れず、大きめの死者の庭は数々の教会を、殿堂と呼ばれる聖堂を囲んでいます。ふと迷い込んだ裏道の中、家々のあいだに墓所を見かけることもあれば、そこかしこの敷石の狭間に目を落として、舗石に刻まれた名と、出生と永眠の日付を見つけることもあるのです。あるいは、家々の住民が絨毯や床板を持ち上げ、床下に墓があると示すことも――シルヴィ、あるいはマルセランここに眠ると――。パラディスは生者の、半生者の、蘇生者の、ことによると死なざる者の都であると同時に、死者の都でもあるのですよ。

 相思相愛で結ばれた若き恋人たち。だが新床で花嫁は愛する夫の手で殺害された。夫が死ぬまで隠し通した悪夢のようなその理由とは?「鼬の花嫁」

 革命で両親を処刑され、叔母の手で育てられた青年。復讐への執念を植えつけられ、敵を追って植民地へ渡った彼が現地で見たものは……。「悪夢の物語」

 幼い頃から周囲の人間が次々と衰弱し死に至るという、不吉な噂が囁かれる女性、その正体とは。「美しき淑女」

 古びた屋敷に住む年老いた姉弟。嵐を逃れて屋敷に逃げ込んだ若者がそこで聞いた、開かずの間にまつわる恐るべき話とは。「モルカラの部屋」

 不思議な力をもつのか、ペテン師なのか、奇怪な風評のある〈奇術師〉にに魅入られた娘の運命は?「大理石の網目」

 先人が記した秘められた異形の谷に取り憑かれたひとりの男。全てをなげうってその地を目指した男が辿り着いたのは。「世界の内にて失われ」

 恋人を女優に奪われた女画家。その彼女に当の女優が肖像がを依頼してきた……。「硝子の短剣」

 冴えない娘が小さな店で見つけた黒い羽根と銀の仮面。鳥を思わせるその仮面を着けると娘の姿は……。「月は仮面」

 退廃と背徳の都パラディスの共同墓地に眠る死者の物語8編を収録。闇の女王タニス・リーの面目躍如たる傑作短編集。


(2015年2月5日/2014年9月5日)




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