今月の本の話題

2014.07.07

ネコとネズミとディケンズと。ヴィクトリア朝ロンドンが舞台の友情物語、C・A・ディーディ&R・ライト『チェシャーチーズ亭のネコ』[2014年7月]

チェシャーチーズ亭のネコ
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動物写真家・岩合光昭氏推薦!!

「ネコにドアはいらない。ネズミの親友と英国一のチーズがあればいい。女王陛下と動物たちに幸あれ!」

 ネコとネズミのどちらが好きかと聞かれたら、たいていのひとは「ネコ!」と答えるのではないでしょうか。ネズミは病気の原因になったり、食品だけではなくいろいろなものをかじってしまうので、あまりいいイメージはありません(世界一有名なネズミはのぞきますが……)。しかし、この物語の主人公であるネコとネズミはどちらも魅力的。本書を読まれた方のなかには、きっと「ネズミのピップのほうが好き!」というひとも多いに違いありません。

 舞台は19世紀、ヴィクトリア朝ロンドン。のらネコのスキリーにはある秘密がありました。ネズミが嫌いでチーズが好き。ある日、彼は英国一チーズがうまいと評判のパブ、チェシャーチーズ亭でネズミを獲るネコを探していると耳にします。まんまと店で飼われたスキリーは、人間の言葉を読み書きできるすばらしく賢いネズミ、ピップと出会い、ある取引を交わすことにしました。スキリーはパブの人間たちの前でネズミを捕まえてみせますが、陰で逃がしてやります。見返りに、ネズミたちは彼にチーズを提供します。次第にあたたかな友情がはぐくまれていきますが、じつはネズミたちは英国の存続にかかわる秘密を抱えていて……。

 本書はキューバ出身で絵本や児童文学の分野で20を超える文学賞を受賞している作家カーメン・アグラ・ディーディと、主にヤングアダルトを執筆し長年チャールズ・ディケンズに傾倒しているアメリカの作家、ランダル・ライトの共作です。とにかく著者たちが楽しんで物語を書いていることが伝わってくる、爽やかかつすばらしい読後感の作品です。「読んでよかったー!」となること間違いなしです。

 さらに特筆すべきは、本文を彩るバリー・モーザーのすてきなイラスト! イラストレーターであり、版画家でもある彼は数々の賞に輝くキャリアの持ち主で、ニューヨークのメトロポリタン美術館や、イギリスの大英博物館をはじめ、あちこちの美術館に作品が展示されています。実力派による動物たちのイラストが、とにかくとにかく可愛い!!! 生き生きとした彼らの姿を見ているだけで、幸せな気持ちになります。

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 動物だけではなく、人間たちも活躍します。人間側の主役と言えるのが、『クリスマス・キャロル』『オリバー・ツイスト』などでおなじみの、かの大作家チャールズ・ディケンズ。彼は舞台となる古いパブ、イ・オールド・チェシャーチーズ亭(Ye Olde Cheshire Cheese)の常連で、雑誌に掲載する予定の新作の書き出しに悩んでいます。この本はもともと『物語のなかのディケンズ』という意味のサブタイトルがついているのですが、本文にはディケンズへのオマージュがいっぱい。ネズミのピップは『大いなる遺産』の主人公と同じ名前です。作中ではディケンズが書いたという設定のメモも重要な役割を果たしており、読み応えたっぷり。最近新潮文庫で新訳版が刊行されたばかりの『二都物語』など、ディケンズ作品とあわせて読むと、より一層本書が楽しめるのではないでしょうか。

 今回、非常にうれしいことに動物写真家の岩合光昭さんからすてきな推薦文を頂戴することができました! ネコ好き、動物好きの方は間違いなく楽しめると思います。楽しい楽しい物語とすばらしいイラストで、ぜひほっこりしちゃってください!

 『チェシャーチーズ亭のネコ』は7月22日ごろ発売です。どうぞお楽しみに。

(2014年7月7日)




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