今月の本の話題

2014.03.05

クリスティに並ぶ英国本格の女王、待望の最新邦訳作!  E・C・R・ロラック 『鐘楼の蝙蝠』【2014年3月】

鐘楼の蝙蝠
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 お待たせいたしました。ロンドン警視庁きっての切れ者、マクドナルド首席警部シリーズの最新邦訳作『鐘楼の蝙蝠』をお届けします。
 作家ブルース・アトルトンの邸で交わされた不謹慎な話題。それは、「抱え込んでしまった死体を現実的かつ独創的に始末する方法」だった。ブルースの被後見人エリザベスが所属するクラブで出されたクイズだという。
 客がおのおの帰途につくなか、執事からドブレットという外国訛りのある男から電話があったと聞いたブルースは、なぜか怒りをあらわにする。その様子を気に掛けたブルースの友人にドブレットの周辺調査を依頼された新聞記者グレンヴィルは、早速そのねぐらであるアトリエ〈死体安置所(モルグ)〉を探し当てて訪れるものの、中にいた男に追い払われてしまう。
 翌朝、グレンヴィルが改めてアトリエを訪れると、すでに昨夜の男は消え失せていた。そして部屋にはパリに出かけたはずの、ブルースのスーツケースとパスポートが残されていた……

* * *

〈死体安置所(モルグ)〉と呼ばれる廃墟じみた芸術家のアトリエ、そこに出入りしていた黒猫の存在、やがて見つかる壁に塗り込められた死体――と、どことなくE・A・ポオの諸作を思わせる道具立てながら、その死体が首と両手首を欠いていたことから事態は二転三転、意外な様相を見せ始めます。複雑な事件に惑わされることなく、部下に的確な指示を出し、精力的に捜査に励むマクドナルドの姿は、クロフツ描くところのフレンチ警部を彷彿とさせます。
 以下、事件関係者とマクドナルドの会話です。素人探偵とはひと味違う“プロフェッショナル”の矜恃にあふれたやりとりにご注目ください。

「とたんにおもしろがっていられなくなった、と」マクドナルドは応じた。「つい最近、あなたに殺人の話をされたのは誰なんですか」
「あの、洗いざらいぶちまけて、それがなんでもないとわかったら、忘れると約束してくれますか」 マクドナルドはにやりとした。そうせずにはいられなかった。「ひとつ忠告しておきましょう。たとえて言うと、手持ちのカードは全部テーブルの上に広げてしまったほうがいいんです、わたしやわたしの部下に一枚一枚ピンセットでつまみあげられるよりは。アトルトン家とつながりのある者は全員、容赦なく尋問されるでしょうし、殺人を話題にされたことがあったのなら、われわれは必ずその事実を突き止めます」

 地道な捜査と卓越した知性で犯罪を追う英国紳士、マクドナルド首席警部の活躍は前作『悪魔と警視庁』でもお楽しみ頂けますが、この巻から読み始めてももちろん大丈夫です。 
古き良きイギリスの雰囲気が漂う本格推理、温かい紅茶やビスケットをお供に(あるいはコーヒーやスコッチでも)ゆったりお楽しみください。

(2014年3月5日)




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