今月の本の話題

2014.02.05

美しい謎と解決。濃密な人間ドラマ。これぞ王道の英国本格! ジム・ケリー『逆さの骨』[2014年2月]


夏を殺す少女
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イギリス東部の町イーリー。第二次世界大戦中に捕虜収容所だった遺跡発掘現場で、奇妙な骸骨が発見された。その男は脱出用と思われるトンネルを、なぜか収容所に向かって這い進んでいたうえ、額を拳銃で打ち抜かれていたのだ。脱走兵にしては謎めいた殺害状況に、新聞記者ドライデンは調査を開始する。だが数日後、同じ現場で新たな死体を発見してしまい……。

* * *


 本書『逆さの骨』の著者のジム・ケリーは、2002年にイーリーを舞台にした『水時計』でデビューしました。彼は自身のホームページで、好きな作家としてレイモンド・チャンドラーやR・D・ウィングフィールド、エリザベス・ジョージ、セバスチアン・ジャプリゾ、エドマンド・クリスピンなど数々のミステリ作家を挙げています。そして“人生を変えられた一冊”はドロシー・L・セイヤーズの『ナイン・テイラーズ』であると語るなど、伝統的なミステリを愛し、黄金期の探偵小説を彷彿とさせる謎解きミステリを執筆しています。

 著者はイギリス生まれの元ジャーナリストで、自身の新聞記者としての経験に基づき、新聞記者のドライデンを主人公としたミステリのシリーズを発表しています。一作目がデビュー作の『水時計』、そして二作目は「2013 本格ミステリ・ベスト10」(原書房)で第3位に輝いた『火焔の鎖』です。このシリーズの主人公であるドライデンはかつてロンドンの新聞社で働いていましたが、不幸な自動車事故に遭い、現在はイーリーという町で『クロウ』という週刊新聞の記者をしています。事故の影響で妻のローラが閉じ込め症候群(LIS)と呼ばれる状態に陥ってしまったからです。身体機能は正常で、ある程度まわりの状況を把握しているのに外的刺激に反応せず、病院のベッドに横たわり続けるローラ。彼女のそばにいるために、比較的時間の自由がきく『クロウ』で働くことを選んだのです。

 三作目にあたる本書は、「これぞ王道の英国本格!」というテイストの作品です。捕虜収容所跡地の脱走路で発見された白骨は、なぜ収容所の方を向いていたのか? そんな魅力的な謎が登場し、さらに現在でも殺人が起き、事件はどんどん混迷を深めていきます。著者は巧妙に伏線を張り巡らし、謎を解く鍵をさりげなく示して読者を翻弄します。謎と論理という骨格に肉付けされた人間ドラマも読み応えたっぷり。まさに“黄金期探偵小説の正統なる後継者”という評価に価する、見事な一作に仕上がっています。

 シリーズ既刊を未読でも、読書の楽しみをさまたげられることはありません。『逆さの骨』は2月28日ごろ発売です。著者の見事な筆さばきをお楽しみください! 

(2014年2月5日)




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