今月の本の話題

2013.11.06

新鮮な味わいの北欧ミステリ ヴィクトル・アルナル・インゴウルフソン『フラテイの暗号』[2013年11月]

フラテイの暗号
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 北欧ミステリといえば、〈刑事ヴァランダー・シリーズ〉のヘニング・マンケルや『湿地』『緑衣の女』のアーナルデュル・インドリダソン、〈ミレニアム〉のスティーグ・ラーソンなど、現代社会の問題をするどく追及した暗く重い作品が多いイメージでした。
 でも同じアイスランドを舞台にしていながら、このヴィクトル・アルナル・インゴウルフソンの『フラテイの暗号』は『湿地』などとはひと味違います。

 舞台はアイスランドの西部にある風光明媚なフィヨルドの湾に浮かぶ、小さな島フラテイ島。島民たちは、わずかな土地を耕し作物を作り、海で魚を漁り、ひなが巣立ったあとのケワタガモの巣から羽毛を集めて売っては生計をたてている。
 そんなフラテイ島の外れに住む祖父・父・孫息子の男ばかりの一家が、近くの無人島にアザラシ狩り行ったことから、物語は始まる。
 その無人島で、孫息子の少年が、死後かなり経過した様子の男の死体を見つけてしまうのだ。どうやらこの島に漂着したものの、どこにも行くことができず、餓死してしまったらしい。いったいこの男は何者で、どこから来たのか?
 平和な島では滅多にない謎の死体。調査のために本土から地区長代理の青年キヤルタンが派遣されてきた。
 島の教会の会衆代表のグリームル、女医のヨウハナとともに問題の遺体を調べたキヤルタンだったが、遺体のポケットから「この本の所有者はそれがしこと、ヨウン・フィンソンなり……」という文と、三十九の無意味な文字の羅列が書かれた紙が出てきた。ヨウン・フィンソンとは十七世紀の人物で、アイスランドの伝承を集め記したサガ『フラテイの書』をビショップに寄贈した豪農らしい。  その『フラテイの書』には、解読した者に災いをもたらす暗号が隠されているというのだ。亡くなった人物は、その暗号を解こうとして、呪いにあったのか?

 風光明媚なフィヨルドの湾に浮かぶ実在の島フラテイ島を舞台に、伝承の書と隠された暗号が織りなす独特の味わいのミステリ。
〈ガラスの鍵賞〉候補作。


(2013年11月6日)




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