今月の本の話題

2013.11.06

硬質な抒情に満ちた本格SFの傑作 結城充考『躯体上の翼』[2013年11月]

天使の死んだ夏 上
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分厚い灰色の雲に覆われた炭素繊維躯体の都市群を、国務院と一部大企業が支配する〈共和国〉。百年あまりを費やして、共和国に張り巡らされた互聯網(ネット)への侵入に成功した少女・員(エン)は、その内部を探索するうちに、「cy」と名乗る謎の人物から呼びかけられる。数百年にわたる孤独に耐え、倦怠の時を過ごしていた員は、厖大な知識を持つcyと会話を交わすうちに、共感と友愛の情を抱くようになる。
員は人狗(ヒトイヌ)と呼ばれる獰猛な生命体と戦うため、大企業〈佐久間種苗〉によって造り出された人型の生体兵器だった。

百年ごとに繰り返される軍の緑化政策――実質的には共和国以外の文化を根絶するための、細菌兵器の散布――を目的とした船団の護衛のため招集をかけられた彼女は、船団が向かう先が、cyの居る都市・東景(トウケイ)であることを知り、はげしく動揺する。
員はcyへ向けて、東景から逃げるようメッセージを送るが、彼はある事情から現在の居住区を離れることはできないという。
彼を救いたい。せめて死のその時、彼とともにありたい、と願った員の脳裏に、不可能とも思える手段が閃いた。

――緑化政策船団211隻を私一人で墜とす。あなたが殺されないように。

それが、彼を救うただ一つの方法。
生体兵器として、数百年に亘る戦いと孤独を生き抜いた少女は、初めて自分の意志を持って戦いに赴いた。

一方、東景に向かう緑化政策船団は、謎の襲撃者によって輸送船が一隻一隻と墜とされていた。この異常事態に、本国からは〈道仕〉と呼ばれる指揮官を〈下載(ダウンロード)〉するよう、旗艦に指示が下される。千年にわたる人狗との戦いを経験し、非人間的な戦術を駆使する道仕が指揮権を掌握したことにより、戦いは激しさを増してゆく――



孤児の少女ナツと、抗争で妻子を失いサイボーグとなった男・シマを主人公とした『奇蹟の表現』で第11回電撃小説大賞銀賞を受賞し、第12回日本ミステリー文学新人賞受賞作『プラ・バロック』に始まる女性刑事クロハのシリーズで人気を博した著者の新境地ともいえる作品です。
『躯体上の翼』は2013年11月下旬発売予定です。SFでしか書き得ない、硬質な抒情に満ちた物語をお楽しみ下さい。

(2013年11月6日)




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